カット&ペースト
2007/10/30
Kas wa Lask
2006年,エジプト,105分
- 監督
- ハーラ・ハリール
- 原作
- ハーラ・ハリール
- 脚本
- ハーラ・ハリール
- 撮影
- ターリク・アッティルミサーニー
- 音楽
- ターメル・カラワン
- 出演
- ハーナン・トルク
- シェリーフ・ムニール
- ファトヒー・アブトゥルワッハーブ
パラボラアンテナを設置する仕事をしているユーセフは仕事に行った先で古物商のガーミラと出会う。兄が結婚するため家を出なくてはならないユーセフは、ガーミラがニュージーランドへの移住のために頑張っていると聞き、自分も移民を考えるが、移民のための条件をふたりとも満たすことができない。そこでふたりは偽装結婚してそのための条件を満たそうと考えるのだが…
長編デビュー作『ベスト・タイム』(04)で認められたエジプトの女性監督ハーラ・ハリールのロマンティック・コメディ。
なんだか懐かしい感じがする。移民というトピックはエジプトの奥に事情を反映していつ感じではあるが、偽装結婚という題材は使い古されているといってもいいほどに繰り返し使われてきたものだ。なんといってもまず思い出されるのは『グリーン・カード』だし、比較的最近のドイツ映画『愛より強く』はドイツのトルコ人が親から逃れるために偽装結婚する話だった。他にもいくつも思いつくくらいだから、偽装結婚をモチーフにした映画というのは世界中に、そしてもちろんエジプトでも今までにあっただろう。しかも、偽装結婚したはずの男女が結局恋に落ちてしまうというのは、偽装結婚を題材とした物語のお決まりのプロットだ。
この作品はそんな使い古された題材をお決まりのプロットで料理して、それ以上のことは何もしない。何か新しい工夫を加えたり、新たな展開を用意したりはしないのだ。そのお決まりの物語はまるで60年代の日本のプログラム・ピクチュアのように結末を予想させる。美人女優も出てくるし、何も考えなくても見られるし、娯楽映画というのはこうでなきゃいかんという見本のような映画なのだ。それはつまり同じような作品であっても繰り返し見ることができる大衆のための娯楽であり、古き善き時代の映画の姿である。
アメリカ、インド、エジプトに次ぐ映画大国といわれるエジプトではもちろん世界に通用する新しい感覚の作品も作られているだろう。しかし、同時にこの作品のような牧歌的というか懐かしい感じの“いい”作品も作られ続けているのだろう。このような作品が作られ、流通する国の映画産業には活気があるのだと思う。このような作品が作られるということは同じような作品がいくつも作られても、観客がそれを受け入れるということだからだ。これは多少形は違うが韓国にも当てはまることかもしれない。
同じような題材で映画が繰り返し作られても観客がそれを受け入れる。そんな幸福な国から喜多映画はあまり面白いとはいえなくてもそれなりに楽しめる。なぜならそこにはひとつの文法があり、その文法に乗りさえすれば、一通りの面白い映画ができるからだ。
ハリウッドや日本のスターを起用しない限り、ようにどんどん新しい刺激を生み出さなければ観客をひきつけることができない国の映画は作品はどんどん生まれるが、その映画界が活況かどうかは疑問が残るところだ。そこからは新しいものが生まれてくることも確かだが、“ハズレ”も多くなってしまう。
この作品ののどかな笑いを眺めながら感じるのは、エジプト映画の暖かさだ。こんな作品も時々は日本に入ってきて欲しい。