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いのちの食べ方

★★★--

2007/11/9
Unser Taglich Brot
2005年,オーストリア=ドイツ,92分

監督
ニコラウス・ゲイハルター
脚本
ニコラウス・ゲイハルター
ウォルフガング・ヴィダーホーファー
撮影
ニコラウス・ゲイハルター
出演
ドキュメンタリー
preview
 機械で猛スピードでより分けられるひよこ、ビニールハウスで機械的に栽培される野菜、巨大な機械で耕される畑、人々の食生活を支える食料の、その作られ方は美しくもあまりに無生物的なものだ。
  オーストリアのドキュメンタリー作家ニコラウス・ゲイハルターがなかなか見ることのできない食糧生産現場にカメラを持ち込み、その過程を綿密に映し出したドキュメンタリー。私達と他の生き物との関わり方について考えさせられる。
review

 この作品のいいところは現在の食物生産の徹底的な効率化を描いている点だ。動物も植物も自然から引き離され、人工的な環境の中で育てられる。ベルトコンベアーから超高速でかごに振り分けられたひよこは、一度も陽の光を見ることなく若鶏となってやはりベルトコンベアーで運ばれて精肉となる。それは残酷さを排除した合理的なシステムである。しかしそこには何かぼんやりとした不安というか後ろめたさのようなものも付きまとう。自然から引き離された動植物、それを食べる自然から引き離された人間、この作品に描かれている世界は私達に大地との間にギャップがあるような気にさせる。
  作品の終盤に一面ビニールハウスで覆われた風景の映像が登場する。それを見て感じるのは、私達は地球の上に立っていながら大地の上には立っていないということだ。私達はビニールハウスやあるいはアスファルトにによって物理的に大地と絶縁されていると同時に人工的な食物によって心理的にも大地から引き離されている。
  私たちは確かに日常的に土や森や畑や海や川を目にする。しかし、それは私達の生活と直接的につながっているだろうか。私達(特に都市生活者)の生活にかかわっているものといえば、道路や建物や電車といった人工物であり、食べ物も出来上がったお惣菜やレトルト食品、パックされた肉や魚、きれいに整形された野菜などだ。
  この作品は、食物の面で私達がいかに大地と引き離されているかを描くことで、そのことを考えさせる。同時に食べている人々の映像も映すことで、食糧生産と食べることを結び付けようとするのだ。それを見ると食べ物に対してもう少し注意深くなろうという気になる。日本語の「いただきます」という言葉は生き物の命を「いただく」という意味だということはよく言われる。キリスト教などの食前の祈りは「日々の糧(Dairy Bread)」を与えてくれた神に対する感謝だが、日本語の「いただきます」は食べ物となってくれた生き物そのものに対する敬意の表れである。そのような文化の中で生きてきた日本人としては、改めて生き物を「いただく」ことの意味を考えさせられる。

 ただ、この作品は完成度としてはどうかという気もする。それぞれのショットは本当に美しく、惚れ惚れするものだが、全体としてはさまざまな断片がつなぎ合わされただけで、それぞれの生き物がどのようにして食卓に上るのかという全体の過程は見えにくい。豚や牛が屠殺されさばかれる過程を見せるのはいいが、それが食卓に上るまでには、その大きな肉の塊が細かく裁断され、あるいは成型されて、パッキングされてスーパーの店頭に並ぶという過程がある。そこまで描かなければ生き物としての牛とわれわれが口にする牛肉とはリアルに結びつかないのではないか。
  その意味ではフレデリック・ワイズマンが1976年に撮った『肉』のほうがリアリティがあるといえる。ワイズマンの『肉』は若牛が競りにかけられて太らされ、屠殺されて処理され、最終的にブロック肉になったり、ひき肉になったりして工場から出荷されるまでをつぶさに映していた。それは牧場で草を食む牛とわたしたちが口にする牛肉とを直接的に結びつけるものであり、その間のブラックボックスとなっている部分を明るみに出すものだった。
  この作品もたくさんの食べ物を欲張って盛り込むのではなく、対象をいくつかに絞ってその過程を克明に描いていったほうが、説得力を持ったのではないか。いくら従業員がランチを食べるシーンを長々と映したとしても、彼らが食べているものと彼らが加工しているものが直接的に結びつかなければそれほどの喚起力は持たない。
  ここに登場する機械は機能美にあふれた美しいものだ。その美しさをもっとうまく利用して、私達を魅了し、衝撃を与えてくれればもっと面白い作品になったと思うのだが。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: オーストリー

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