女王陛下の戦士
2007/11/13
Soldaat van Oranje
1977年,オランダ,146分
- 監督
- ポール・ヴァーホーヴェン
- 原作
- エリック・ヘイゼルホフ
- 脚本
- キース・ホリアーホーク
- ジェラルド・ソエトマン
- ポール・ヴァーホーヴェン
- 撮影
- ヤン・デ・ボン
- ヨソト・ヴァカーノ
- 音楽
- ロジェ・ヴァン・オテルロー
- 出演
- ルドガー・ハウアー
- エドワード・フォックス
- ジェローン・クラッペ
- スーザン・ペンハリゴン
1938年、ライデン大学に入学したエリック・ランソホフ上級生の手荒な歓迎を受けるが、学生委員長のヒュースに気に入られ友人となる。1940年、英国とドイツが交戦状態に入り、オランダはすぐにドイツに降伏、女王は英国に逃れ、国民の一部はレジスタンス活動を始める。エリックもその活動に参加するのだが…
『ブラックブック』のポール・ヴァーホーヴェンがオランダ時代に撮った歴史ドラマの大作。あまり知られていない第2次大戦時のオランダの状況を描いた。
いきなり飛び出すグロテスクなシーン、たびたび登場するセックスシーンにはヴァーホーヴェンらしいリアリズムが感じられるけれど、歴史ドラマという大きな舞台の中ではどうもそれは瑣末なものに感じられてしまって、彼らしい迫力というのを生み出すのには今ひとつ成功していないような気がしてしまう。
しかし、戦争という死と密接に関わる状況はセックスとも強く結びつく。セックスとは生の露骨な顕れであり、死を前にした男達は自分が生きていることの証を求めてセックスにふける。趣味の問題もあると思うが、そんなことを言わんがためにヴァーホーヴェンはセックス・シーンを、複数の男と関係する女を描いていったのではないか。
ただ、この映画ではその生と死は前面には出てこない。前面に出てくるのは戦争という状況の中での友情の物語である。ユダヤ人もいれば、ドイツ系も多いというオランダが、ナチスドイツの支配下に置かれたとき、人種や宗教ということにこだわらずに付き合っていた友情がどう変化するのか。ある者は迫害する側に回り、ある者は迫害される側に貶められ、ある者はレジスタンス活動に加わり、ある者は静かに嵐が過ぎるのを待つ。
時に立場の違いが対立を生むこともあるけれど、友情は戦争という状況を越えて続く。結果的にナチスとレジスタンスに分かれることになってしまったアレックスとエリックに端的にそれが表されるが、エリックが自分の代わりに逃がそうとしたユダヤ人のヤンも、持ち前の几帳面な性格を生かして緻密なレジスタンス活動の中心人物となって行くニコも、社会が押し付けるアイデンティティよりも友情という自分の手で感じることができる関係を常に意識して生きているのだ。
この物語は表面的にはナチスドイツに支配されたオランダでのレジスタンスとイギリスに逃げた王室の物語である。しかし、これが単なるレジスタンス映画ではないのは、オランダがドイツ系が多かったために反ナチスという形で一枚岩で結束できなかったという事情などを反映して、そこに複雑な心理が働いているからだ。海を隔ててナチスを敵としか見ないイギリスとは違うオランダ人としての見方がそこには表れている。
もちろんナチスは極悪非道のファシストだ。しかし、そこに与する事情にはさまざまなものがある。ナチスに与して裏切り者になるか、レジスタンスとして英雄になるか、その違いは紙一重でしかなく、その違いを生むのは個人の資質ではなく、選択と運である。
この作品がナチスを撃退するという劇的な結末を用意しないのは、この戦争の終結が必ずしもハッピーエンドではなかったということを示唆している。いつも書いていることだが、戦争とは誰にとっても悲劇でしかない。戦争の間も友情は保たれたが、戦争は友人を奪った。この作品の結論はただそれだけだ。写真に写った友だちのほとんどはもういないのだ。