マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾
2007/12/10
800 Balas
2002年,スペイン,124分
- 監督
- アレックス・デ・ラ・イグレシア
- 脚本
- ホルヘ・ゲリカエチェバァリア
- アレックス・デ・ラ・イグレシア
- 撮影
- フラビオ・マルチネス・ラビアーノ
- 音楽
- ロケ・バニョス
- 出演
- サンチョ・グラシア
- アンヘル・デ・アンドレス・ロペス
- カルメン・マウラ
- エウセビオ・ポンセラ
- ルイス・カストロ
やり手のビジネスマンの母親と祖母と3人暮らしのカルロスは、引越しの最中に死んだ父親の写真を見つけ、祖母に祖父が実はまだ生きていてアルメリアでスタントマンをしていると聞く。どうしても会って父親の事を聞きたいカルロスは、学校のスキーツアーを抜け出して祖父に会いに行く…
『みんなのしあわせ』のアレックス・デ・ラ・イグレシアがマカロニ・ウェスタンへのオマージュとして撮りあげたアクション映画。少し間抜けな感じがいい。
映画は、父親のことをほとんど知らない少年カルロスが、カウボーイ姿をした父親の写真を見つけ、父親に好いて知りたいと思うところから始まる。そして父親が祖父と共にスタントマンをしていて、その撮影中の事故で死んだと知ってその祖父に会うためにひとりアルメリアに向かうのだ。カルロスはそこで映画の撮影が行われていると思っていたが、そこは観光客向けのウェスタン村となっていて、祖父はそこにいた。その祖父フリアンは孫を拒絶する。そのフリアンの心理の背後には、カルロスの父、フリアンの息子の死の真相があるようなのだが…
物語はそこにフリアンを嫌うカルロスの母ラウラが絡んできて、カルロスがフリアンに懐くのを嫌がるラウラが彼のウェスタン村を買い上げてそこにテーマパークを作ろうと計画することで複雑になっていく。
終盤はアクション映画となり、マカロニ・ウェスタン風の演出で組み立てられるので、マカロニ・ウェスタンのファンにはうれしい演出だ。そして同時にその舞台や人物がうらびれて、くたびれていることでペーソスを感じさせて味がある。
しかし、この展開にはかなり無理があり、いきなりフリアンが実弾で武装し、ウェスタン村を守ろうとするという動機がわかりにくい。平和な村で、警察も最初はガスやらゴム弾やらで鎮圧しようとしているのにフリアンは本当の実弾を持ち出すのだ。このあたりの展開の唐突さに今ひとつ付いていけず、興味をそがれてしまったということはある。
ただ、この物語は一人の人間の死がその人物の家族に楔を打ち込んでしまったという物語だ。夫の死に義父が責任があると感じる妻、自分に責任はないと知っていながら息子を救えなかったことを直視できない父、それによって変わってしまった夫から離れてしまった母、そのような引き裂かれた家族の中で父親を知らずに育った息子、ばらばらになってしまった家族をその息子が再びくっつけようとする。それがこの物語の核心だ。
しかし、それはそんなに簡単ではない。息子だからといって簡単に父親の代わりにはなれない。
家族のそれぞれが抱える悩みや孤独、それが背後にずっとあるがゆえにこの物語は終始ぎこちない。映画としてわかりやすいものを作ろうとするなら、父親の死の真相を明らかにし、フリアンにその責任がなかったということを明らかにして、そこから家族関係の修復を始めるべきだ。そうすれば、何がどう対立し、なぜ家族がばらばらになっているのか、そしてこれからどのようにして関係が修復されていくのかがわかりやすくなる。
しかし、この作品はそのようなやり方は取らず、結局その父親の死の真相は最後まで明らかになることもない。最後までぎこちなさは残り、突然ラウラがフリアンを許すことにした理由も明らかにはされない。このぎこちなさは映画をつまらなくするか、映画の“味”となるか紙一重の効果を生む。映画に今ひとつ乗ることができなかった私にはつまらなさとなってしまったが、うまく映画の世界に入り込むことができれば、これは非常にいい“味”となるのではないかと思う。
監督のアレックス・デ・ラ・イグレシアはかなりあくが強いが、はまる人ははまる監督だと思う。次回作はイライジャ・ウッドが出演するクライム・サスペンスということらしく(スペインでまもなく公開)、今後も期待が持てる。