あなたにも書ける恋愛小説
2007/12/12
Alex and Emma
2003年,アメリカ,95分
- 監督
- ロブ・ライナー
- 脚本
- ジェレミー・レヴェン
- 撮影
- ギャヴィン・フィネイ
- 音楽
- マーク・シェイマン
- 出演
- ケイト・ハドソン
- ルーク・ウィルソン
- ソフィー・マルソー
- ロブ・ライナー
- デヴィッド・ペイマー
小説家のアレックスはスランプに悩んでいたが、キューバ人からの借金を返すため新作を1ヶ月で書き上げなくてはならない羽目に陥っていた。取立て屋にパソコンを燃やされてしまったアレックスは速記者を雇うことを考え、速記者のエマがやってくるが、エマはアレックスに不信感を抱く…
ケイト・ハドソン主演のラブ・コメディ。監督は『恋人たちの予感』のロブ・ライナーで、ケイト・ハドソンの魅力を存分に引き出している。
法律事務所だと嘘を言われてアレックスのところにやってきたエマはこ汚いアパートに不信感を丸出しにする。どうしても速記者が必要なアレックスと憤慨して帰ろうとするエマ、ここのやり取りがテンポよく、序盤で作品の魅力に引き込まれてしまう。
ルーク・ウィルソンはオーウェン・ウィルソンの弟で、いろいろな作品に出ているがどれが代表作ということもなく、かなり地味な役者だ。この作品でもケイト・ハドソンの脇で地味さを発揮しているが、ケイト・ハドソンにぴたりと波長を合わせて映画をうまく運んでいるように見える。
そのルーク・ウィルソン演じるアレックスはどうしようもない男の恋愛を描く小説家、ケイト・ハドソン演じるエマは小説の結末を読んでから、その小説を読むかどうかを決めるような実際家で、ふたりは正反対、しかしもちろんラブコメの定石どおり、対照的で最初は反発しあっていたふたりが一緒の時間をすごすうちに徐々に心を通いあわせ、最後には惹かれあっていくという展開になっていく。この展開は、まさに定石という感じでとくにおもしろいということもつまらないということもない。
この物語の肝はアレックスが口述する小説が現実の生活とつながりがあり、現実のアレックスとエマの関係が小説の登場人物である“ポリーナ”に影響されるということである。エマは“ポリーナ”が実在するのではないかと疑い、それが引っかかってアレックスとの関係に踏ん切りがつかない。
アレックスが口述する物語のほうは、1930年代が舞台で、小説家志望の青年が夏休みの間、金持ちの未亡人ポリーナの家に家庭教師に行き、そのポリーナに一目ぼれするという話で、そのポリーナを演じるのがソフィー・マルソー、ケイト・ハドソンはその家の家政婦役で登場する。その家政婦というのがアレックスの思いつきで最初はスウェーデン人のイェルヴァ、続いてドイツ人のエルサ、さらには一瞬スペイン人のエルドーラ、最後はアメリカ人のアンナとなるのだが、ケイト・ハドソンはそのたびに変な訛りでその家政婦を演じ、それがなんともキュートなのだ。母親譲りの芸達者ぶりもなかなかすごい。
その金持ちの夫人ポリーナに引かれる主人公アダム(もちろんルーク・ウィルソンが演じている)はアレックスの分身であり、エマはアレックスにもポリーナが存在しているに違いないと確信するのだ。観客のほうは、編集者との会話でアレックスが最近失恋したということを知っているので、これがポリーナなのだろうとあたりをつけることができる。
そしてもちろんポリーナは存在し、最後には登場する。そこから先はラブコメとはいえネタばれになるので書かないが、小説の結末と現実の結末が絡み合い、エマの心は千路に乱れる。
結局この映画はケイト・ハドソンのための映画である。美貌からすると完全にソフィー・マルソーのほうに軍配が上がるのだけれど、ケイトにはキュートな魅力がある。ここではソフィー・マルソーの美貌はそのケイトのキュートさを引き立てるための材料に過ぎず、ソフィー・マルソーが美しいがゆえにケイト・ハドソンの魅力が増すという不思議なことが起こっている。そのあたりはロブ・ライナーの演出の小粋なところだと思うのだが、そのようにして魅力を存分に引き出されたケイト・ハドソンは本当に輝いている。
『プリティ・ヘレン』はケイト・ハドソンの魅力で持っている映画だと思ったが、この作品はケイト・ハドソンを輝かせている映画だと思う。
ケイト・ハドソンのファンは何がなくとも見なければならない作品だし、ファンでなくともこれを見ればファンになってしまうかもしれない。ついついケイト・ハドソンがラブコメの女王になる日も近いのではないかと思ってしまうのだ。