陽気なギャングが地球を回す
2008/2/13
2006年,日本,92分
- 監督
- 前田哲
- 原作
- 伊坂幸太郎
- 脚本
- 長谷川隆
- 前田哲
- 丑尾健太郎
- 撮影
- 山本英夫
- 音楽
- 佐藤“フィッシャー”五魚
- 出演
- 大沢たかお
- 鈴木京香
- 松田翔太
- 佐藤浩市
- 大倉孝二
- 加藤ローサ
- 古田新太
四人組の銀行強盗、人質たちを集めて演説を始めた饗野が風変わりな話をしている間に、他のふたりが金を集め、時間ぴったりに銀行を出て車で逃げる。しかし、警察から逃げ切ったとたん目だし帽の4人組に襲われ、盗んだ4000万を奪われてしまう…
演説上手の饗野、スリの名手久遠、人の嘘を見破る成瀬、正確な体内時計を持つ運転の名手雪子、変わった四人組の銀行強盗をめぐるサスペンスコメディ。
最初の強盗シーンはなかなかのスピード感があり、それぞれの登場人物の特徴もそれなりに描けていて面白い。しかし、原作を読んでいないと成瀬が人の嘘を見破れるとか、饗野の演説が人を引き込んでしまうということはわからないかもしれない。それでもまあこの4人組の雰囲気はうまく伝わっていると思う。
しかし、いいのはここまで。この後のCGを駆使したカーチェイスの出来の悪さで作品のリアリティは台無しになり、何度も入る文字のインタータイトルは物語の流れを邪魔する。
長編を原作にした映画というのは小説の物語を短縮して1時間半ないし2時間の映画にしなければならない。そのとき、原作を丁寧に映画化するとしたら核となる物語以外の余計な部分をどれだけそぎ落とせるのかが重要になってくるはずだ。しかし、この作品は物語を伝えることよりも映画として格好つけることにばかり気を取られてしまって肝心の物語がおろそかになってしまっている印象だ。運転の名手雪子が警察から逃げる部分なんてのはさらりと流して、他の部分に力を入れるべきだと思った。
それに、この作品は映像でイメージを伝えられるという映画の特性を利用することが出来ておらず、逆に映像で伝えるがために大事な伏線がネタばれしてしまうという危険を冒している。肝心の黒幕も盗聴している男もその正体が簡単にわかってしまう… これではサスペンスの最後のカタルシスを演出ことが出来ず、尻すぼみになってしまう。出だしがなかなかよかっただけに、どんどん尻すぼみになっていく展開はなんとも残念でならない。原作うんぬんを言わなくてもこれは平凡な作品だが、原作が素晴らしいだけに完全な失敗作となってしまったという印象は否めない。映画を見て逆にもう一度原作を読み直したくなった。
しかし、佐藤浩市と大倉孝二はよかったと思う。佐藤浩市は破天荒なキャラクターを見事に演じ、演説のシーンでも饗野のキャラクターにあった説得力のある話し方を疲労する。おかしな格好もなぜだか板についているし、仕草や表情でうまく内面を表現していると思った。
大倉孝二のほうは脇役だが、その癖のある演技で予定調和の物語にひとつ楔を打ち込んでいるように見えた。この映画の主人公4人はみな善人というわけではないが、好感を持てるキャラクターたちばかりだ。そんな4人だけでは退屈しがちな物語を大倉孝二がうまくかき乱していた。本当は松田翔太が演じた久遠も多少その役割を担うべきだったのだろうが、そこは役者としての力量の差だろうか。 大沢たかおと鈴木京香は可もなく不可もなくというところだろうか。ふたりともちょっと入り込みすぎていてこのキャラクターに対してはミスキャストという印象もあるが、まあそれほどひどくはない。
原作の物語の面白さと佐藤浩市で何とか及第点という感じだが、この監督はちょっと… これまでの作品を見てみると『パコダテ人』とか『棒たおし!』とか… 脚本・監督を換えてもう一度映画化してくれないだろうか…