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ベストセラー

四十七人の刺客

★★★.5-

2008/2/16
1994年,日本,129分

監督
市川崑
原作
池宮彰一郎
脚本
池上金男
竹山洋
市川崑
撮影
五十畑幸勇
音楽
谷川賢作
出演
高倉健
中井貴一
森繁久弥
石坂浩二
岩城滉一
浅丘ルリ子
宮沢りえ
西村晃
石倉三郎
preview
 鎌倉の隠れ家から川崎へと拠点を移す大石内蔵助と赤穂の10人の浪士たち、ことの起こりはその1年半前、赤穂の君主浅野内匠頭が殿中で刃傷沙汰に及び、赤穂藩が廃藩と決まったところからだった。筆頭老中の大石は粛々と城の明け渡しの準備を進めながらひそかに別の復讐劇の準備も進めていたのだ。
  市川崑バージョンの「忠臣蔵」、時間の流れをうまく制御し、内蔵助中心に語ることで、ひねりの聞いた忠臣蔵になっている。ただキャスティングはいまいちか。
review

 「忠臣蔵」が今までで最も多く映像化されてきた作品であることは間違いない。それはすなわち「忠臣蔵」が映像化しやすいということでもあり、「忠臣蔵」ならほっといてもたくさんの人が見るだろうということでもある。しかし同時にそれだけ使い古された題材だけに、作り手としての自分らしさを出したり、新しさを出したりするのは難しい。
  市川崑は自分らしさや新しさを出すために2つの工夫をしていると思う。ひとつは時間の流れ、つまり物語の構成を綿密に計算しているという点だ。この作品は“松の廊下”から始まってそこから順に語っていくのでも、“討ち入り”から始まって過去に戻っていくのでもない。討ち入りの少し前から始まり、すぐに“松の廊下”の直後に戻ってそこから展開される。そして、その後も時間と場所が巧みにジャンプし、観客の興味を尽きさせない。特に内蔵助ないし他の誰もが移動する場合に、移動する時間はまったく排除している。
  これはこの作品がまったく余計なエピソードを含まないということでもある。サブストーリーのようなものはまったくなく、討ち入りに至るまでの物語とその討ち入りと四十七士やそのほかの人々の係わり合いだけを描いているのだ。誰もが知っているその物語に観客をひきつけるためにはもちろん小さなエピソードをたくさん含め、その展開を使っているのだが、そのすべてが見事にプロットに絡んでいくのだ。このあたりは新しくは無いが作品としての質の高さを示している。
  そして、もうひとつの新しさはキャスティングだろう。主役の大石は時代劇のイメージのあまり無い高倉健、そしてその他のキャスティングも役者が本業では無いような人たちが多く起用されている。ただこれはちょっと失敗だったかなと思う。高倉健は確かに内蔵助らしい存在感はあるが、時代劇の演技はあまりうまいとはいえない。他の宇崎竜童とか石倉三郎なんてのも今ひとつだし、宮沢りえもどうかなという感じだ。逆に“敵方”にあたる中井貴一、石坂浩二、西村晃はよかった。役者という点では吉良側に軍配という感じだろうか。ただ個人的には大石主税を演じた尾上丑之助(今の尾上菊之助)は本当に江戸時代のいいとこの侍の子供のようで(気持ち悪くて)よかった。さすがは母が富司純子、姉が寺島しのぶというサラブレットという感じだ。2006年版の『犬神家の一族』にも出ているらしい(しかも富司純子と親子共演)から、市川崑監督も気に入ったんだろうと思う。

 しかし、この作品が本当によかったのはその新しさではなかった。私がこの作品で一番「いい!」と思ったのはその音だった。基本的に静寂に支配されたなかで、衣擦れの音や障子を開け閉めする音が非常にクリアに聞こえる。絹の着物が擦れあう音や木と木がこすれる音といった現代ではあまり聞くことのなくなった音、その音を強調し、効果的に使うことでこの作品は「忠臣蔵」という世界を見事に演出している。映像という点では明らかにセットでいつも見ているような顔が並んでいるためにその「忠臣蔵」にリアリティはあまり感じられないのだが、この“音”に非日常のリアリティが存するのだ。
  そして、その音と連動した形で使われるクロースアップのインサートショットがそのリアリティを増幅する。映画の序盤の速籠のインサートに始まり、畳に槍が突き刺さるショットや、討ち入りする時の足元といったクロースアップにドキッとするようなリアリティがあるのだ。
  このような目に付きにくい部分こそ映画が作品として完成される部分だ。この目に付きにくい部分をおろそかにしないところが市川崑はやはり撮影所育ちの映画監督だということだと思う。それぞれの部署に確実な技術を持ったスタッフを配し、土台をしっかり作る。それが日本映画の質を高めてきたのだ。
  その基礎は映画を撮り始めて45年、80歳に迫っても揺るがない。こんな映画監督はもう出てこないのかもしれない。

Database参照
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国別・年順: 日本90年代以降

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