口紅殺人事件
2008/2/17
While The City Sleeps
1956年,アメリカ,100分
- 監督
- フリッツ・ラング
- 原作
- チャールズ・アインシュタイン
- 脚本
- ケイシー・ロビンソン
- 撮影
- アーネスト・ラズロ
- 音楽
- ハーシェル・バーク・ギルバート
- 出演
- ダナ・アンドリュース
- ジョージ・サンダース
- ハワード・ダフ
- アイダ・ルピノ
- ヴィンセント・プライス
一人暮らしの女性の部屋に品物を届けた雑貨店の男、怪しい目をしたその男は、再び部屋を訪れ女性を殺害し、口紅で壁にメッセージを残した。新聞記者のエドワード・モブリーは新聞社の社長の死に伴って権力闘争に巻き込まれ、この事件を追わざるを得なくなる。
フリッツ・ラングがハリウッド最後の年に撮ったサスペンス・ドラマ。
最初のシーン、目をぎらぎらとさせた男が女性に目をつけ襲い掛かる隙をうかがっている。このシーンだけでぐっと引き込まれてしまう。ここにはフィルム・ノワールのような暗いムードがあり、サスペンスらしいスリルに満ちている。
このままフィルム・ノワール風に展開していくのかと思いきや主人公の新聞記者エドが登場すると、その明るさが映画の雰囲気を一変させる。しかもエドは誰からも好かれる好青年で恋人もいる。ここだけ見るとまるでフランク・キャプラ風のスクリューボール・コメディでも始まりそうだ。
この対照的な雰囲気を持つ二つのシークエンスがエドを買っている社長の死によって絡み合っていく。ただ好青年なだけでなく有能で、警察に友人もいるエドは社長を継いだ前社長の息子が仕掛けた権力闘争に巻き込まれ、この事件を追及していかざるを得なくなる。その権力闘争はエドの友人であるグリフィスやエドの恋人ナンシーの上司であるラヴィングが繰り広げ、ナンシーも巻き込まれざるを得ない。さらに現社長の夫人や他の記者まで絡み合ってきて、複雑さを増していく。
しばらくは、犯人は差し置かれこの権力闘争のほうばかりが展開されていくのだけれど、その人間関係はこじれてはいるけれど同じ会社の中だけに根源的に反目するというところまでは行かない微妙なところで展開されていく。このあたりは非常に地味ではあるけれど、何でもかんでも対立が先鋭化してしまう昨今のハリウッド映画とはかなり違う味わいで面白く見ることができる。
この権力闘争が本格的にこじれてきたところでいよいよ事件の解決となる。ここでも複雑さは維持され、偶然に頼りすぎているという感も無いではないが大団円に向けて一気に物語りは展開する。このカタルシスもさすがという感じだ。
まあ、しかし全体的に見れば飛びぬけて面白いという作品というわけではなく、どこかB級テイストもあるようななかなか面白いサスペンス映画というところだろう。
フリッツ・ラングはこの年もう1作品(日本未公開)を撮ってハリウッドをあとにした。理由はハリウッドの製作システムがストレスであったということらしいが、ドイツ(西ドイツ)に帰ったあともわずか3本の映画を撮っただけで映画制作から身を引いてしまった。晩年、ゴダールに請われて『軽蔑』に出演したが、それを除いては(主にアメリカで)静かな老後を過ごしたようだ。