市川崑物語
2008/2/25
2006年,日本,95分
- 監督
- 岩井俊二
- 脚本
- 岩井俊二
- 撮影
- 角田真一
- 中村真夕
- 音楽
- 岩井俊二
- 出演
- 市川崑
日本映画の巨匠の一人市川崑、1915年三重県に生まれた巨匠の半生を市川崑のファンである映画監督岩井俊二が描いたドキュメンタリー。作品はCGで加工したスチル写真と黒字に白の字幕、市川崑作品のダイジェスト映像からなる。
2006年、2度目の映画かとなる『犬神家の一族』の公開にあわせて制作されたドキュメンタリー。そのわずか2年後市川監督が鬼籍に入られ、貴重な映像となった。
最初は淡々と巨匠の歴史がたかられる。絵が好きだった少年時代、映画との出会い、脊椎カリエス、初恋、戦争、そこに「脊椎カリエスが後に命を救うことになる」というちょっとした謎を忍ばせたりして写真と文字だけの単調な展開に工夫を加えている。ディズニーとの出会い、JOトーキー漫画部への入社、東宝助監督部への移籍とその後も興味深い話が続くが、まああくまでも経歴を淡々と語っているだけだ。
しかし、茂木由美子(後の和田夏十)との出会いから話はふたりの物語となる。ただの夫婦でも、ただの共同製作者でもないふたり、市川崑について語るとき、それは常に同時に和田夏十についても語ることである。和田夏十の才能、ふたりの愛情、そしてそこから生まれる作品、主たる作品のダイジェストを織り交ぜながらふたりの足跡を追うことで市川崑という監督の作品世界とそれと区別するこのできないふたりの生活を描き出していく。
この作品は『市川崑物語』とされてはいるが、本質的には市川崑と和田夏十の物語である。あるいは和田夏十はすでに市川崑の一部分でもあり、その意味ではこれは『市川崑物語』でも正しいのかもしれない。もちろん和田夏十と市川崑は別の人物で、彼らの人間性は異なっているのだが、「映画監督市川崑」というときそこにはすでに和田夏十の存在が含まれている。それは和田夏十が市川崑の一部であるというよりは、和田夏十がそもそも市川崑と市川由美子の共同ペンネームであったのと同じように、「市川崑」が市川崑と和田夏十の共同ペンネームであるかのように。
この作品はそのようにしてうまく「市川崑」の魅力を伝え、さらに作品リストともなっており、重要な作品はダイジェストも収録しているから「市川崑」という映画作家の全体像をつかむのにはいい作品だと思う。ただ、ダイジェストの部分では作品の重要な部分を明かしてしまっている場合(いわゆるネタばれ)もあるので、未見の作品がある場合には注意が必要だ。
これだけ文字を多用するというのはかなり勇気のいることで、しかもうまくまとまっているのは凄いと思うが、市川崑作品のファンであるならば、これから作品を見ようという人がその作品を余すことなく楽しめるような配慮もして欲しかったと思ったりもする。
私自身の市川崑監督との出会いを思い出してみると、『ビルマの竪琴』(中井貴一版)も『竹取物語』も映画館で見たことを思い出した。特に『ビルマの竪琴』は印象に残っていて「水島、一緒に日本へ帰ろう」という言葉がずっと頭にこびりついていた。『竹取物語』はつまらなかったと思うが、今見たらちょっと見方が変わるのかもしれない。