ある日、突然。
2008/3/30
Tan de Repente
2002年,アルゼンチン,93分
- 監督
- ディエゴ・レルマン
- 原作
- セサール・アイラ
- 脚本
- ディエゴ・レルマン
- マリア・メイラ
- 撮影
- ルシアーノ・シト
- ディエゴ・デル・ピアノ
- 出演
- タチアナ・サフィル
- カルラ・クレスポ
- ベロニカ・ハサン
- ベアトリス・ティボーディン
ランジェリーショップで働く太目の女性マルシアはある日、道で二人連れの女性に声をかけられる。二人はつるんでバイクを盗んだりしているマオとレーニン、マオはマルシアに一目惚れしたといい、ファックしようともちかける。マルシアは拒否していたが、レーニンにナイフで脅迫され3人で車に乗ることに…
アルゼンチンの新鋭ディエゴ・レルマンによる青春ロードムービー。ヌーヴェルバーグ、ジャームッシュの流れが南米までやってきたという印象だ。
白黒で荒い映像、手持ちカメラの不安定さ、無軌道な若者、これらの映像やモチーフは必然的にジム・ジャームッシュの『パーマネント・バケーション』や『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を思い起こさせる。おそらくこのディエゴ・レルマンもジャームッシュを意識してこの作品を作ったのだろう。特に『ストレンジャー・ザン・パラダイス』はこの作品と同じく若者3人が旅をする物語であり、海が出てきたりと共通点が多い。
しかし、北米が舞台の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』と南米が舞台のこの作品では風景も違うし、町の景色も違う。この作品の風景はヨーロッパのものに近く、ジャームッシュを飛び越えてヌーベルバーグにつながっているという感じがする。もちろんジャームッシュもヌーベルバーグに傾倒し、その要素を作品に多く取り込んでいるから、根っこは同じということであり、ヌーベルバーグが30年後に北米でジャームッシュという形で実をむすび、40年後に南米でディエゴ・レルマンに影響を与えたということなのだろう。
物語や作品の持つメッセージという点でもこの作品はジャームッシュとは異なっている。ジャームッシュは徹底的に曖昧でいってしまえば無意味なメッセージを持つ作品を作ったけれど、この『ある日、突然。』はもっとポジティヴなメッセージを持っているように思える。3人は最終的にレーニンの大おばの家に行くことになり、そこで大おばとそこに間借りしているデリアとフェリペに出会う。田舎で堅実な生活をしているデリアとフェリペと都会で無軌道な生活をしているマオとレーニンに共通点は無いように思えるけれど、レーニンはブランカとして大おばと接する部分でやさしさを見せ、マオはレーニン抜きで他の人たちと接する間にクールな顔の裏に潜む別の顔を見せる。
このようなポジティヴなメッセージを持つ作品というのはとかく陳腐であったりステレオタイプ的であったりしがちなのだけれど、この作品はヌーベルヴァーグ風の映像と女性3人が主人公という設定によってその陳腐さを免れている。
そして、この作品が持つ(ジャームッシュの作品と比較しての)ポジティヴさというのは90年前後のアメリカの若者が抱えていた虚無感と、21世紀のアルゼンチンの若者が抱える喪失感の違いなのかもしれないとも思う。ものにあふれているけれど未来が見えない若者と、そもそもものすらない若者、ジャームッシュのほうが現代的で都市生活者的という気はするけれど、このディエゴ・レルマンの作品には温かみがあるような気がする。特に結末を見ると、そんな思いにつかれる。