新のんき大将
2008/5/7
Jour de Fete
1949年,フランス,80分
- 監督
- ジャック・タチ
- 脚本
- ジャック・タチ
- アンリ・マルケ
- ルネ・ウェレル
- 撮影
- ジャック・メルカントン
- 音楽
- ジャン・ヤトヴ
- 出演
- ジャック・タチ
- ポール・フランクール
- ギイ・ドゥコンブル
- メーヌ・ヴァレ
田舎町サン・セヴェルにやってきた移動遊園地、町は年に一度の祭りでにぎわう。郵便配達員のフランソワはいつものように配達に町と行くが、ポールたてを手伝ったり友達に酒を勧められたりでなかなか仕事がはかどらず…
俳優として活躍していたジャック・タチが監督に挑戦した初長編作品。オリジナルは『のんき大将脱線の巻』で1947年に制作されたが、タチ自身が63年に再編集してパートカラー版の『新のんき大将』を発表、さらにタチの死後1988年にカラー版があることが判明し、95年に復元された。
ジャック・タチといえば『ぼくの伯父さん』。サイレント映画のようなマイムによるギャグとなんとものどかな雰囲気が独特の世界観を作り出す。サイレント映画ではないのだけれどサイレントの雰囲気を持つコメディの傑作は、サイレント映画がもはや過去のものとなってしまった50年代にきらりと光っていた。
この作品はそんなジャック・タチの初長編監督作品。同じようにマイムで笑いを誘うのどかなコメディ映画だ。しかし、このジャック・タチにはまだ足りないものがある。それは、これが単なるコメディ映画であるという点だ。単なるマイムのドタバタコメディ、サイレント映画の雰囲気を持つ映画であり、それなりに面白いのだが、それだけでは足りない。ジャック・タチの面白さはプラスアルファの部分にある。ギャグ映画のはずなのにギャグよりも笑えない細部にこだわってしまうようなアンバランスさ、笑いを生むためにはもっとテンポよく進めればいいのに、何故か引き伸ばされてしまうなんでもないシーン、それらのずれがジャック・タチ独特の魅力なのだ。
この作品にも、ギャグとは無関係の居眠りする老人が妙に目立ったりして、そのような独特なセンスをうかがわせるところはある。しかし、郵便配達員のフランソワが酔っ払って自転車に乗るシーンなんかは、ギャグとしては長すぎるくらいに引き伸ばされているけれど、それ以上の何かを生み出すということはなく、別の展開の別の笑いへとずれていく。
これではちょっと退屈だ。彼のマイムによるギャグはチャップリンやバスター・キートンにはかなわない。だからただギャグだけでは彼の作品は傑作にはなれない。
ただ、アメリカの郵便配達に関する映画(飛行機に吊り下げられたり、バイクのスタントをしたりするというむちゃくちゃな内容)と、それを見た人たちにフランソワがおちょくられるという内容には当時のアメリカに対するフランス人の感情が表れているようで面白い。一方で田舎者と馬鹿にしながらも、憧れもするアメリカ。それは明らかにチャップリンやバスター・キートンの影響を受けながら何か別のものを作ろうとしているジャック・タチの心情にも重なるものだったのだろう。
映画というのは世界中で影響しあい、新たな歴史が生まれ、新たな映画が生まれるものだ。ジャック・タチはアメリカとフランスをつなぐ無数の結節のひとつとして独特な存在であり、彼の存在はフランス映画の大きな影響を与えた。そんな目で見ると、この作品からも見えてくるものはある。