ミス・ポター
2008/5/21
Miss Potter
2006年,イギリス=アメリカ,93分
- 監督
- クリス・ヌーナン
- 脚本
- リチャード・マルトビー・Jr
- 撮影
- アンドリュー・ダン
- 音楽
- ナイジェル・ウェストレイク
- 出演
- レニー・ゼルウィガー
- ユアン・マクレガー
- エミリー・ワトソン
- ビル・パターソン
- バーバラ・フリン
20世紀初頭のロンドン、32歳で未婚のビアトリクス・ポターは子供のころから書いている動物たちの物語の出版を頼みに出版社へ出向く。出版社は売れることを期待せず、経験のない末の弟ノーマンにその仕事を任せるが、思いもかけずベストセラーとなり、ビアトリクスとノーマンも次第に惹かれあっていく…
世界中の子供たちに愛される“ピーター・ラビット”の作者ビアトリクス・ポターの反省を描いた伝記映画。レニー・ゼルウィガーが好演。
この映画はひとつには「ピーター・ラビット」という誰でも知っている絵本の作者について語るという意味でいい作品だ。ピーターラビットの絵とその話のさわりくらいは大体の人が知っていると思うが、その作者についてはあまり知られていないのだろうと思う。もちろん知っている人は知っているのだろうけれど、それが映画という形で紹介されることは単に情報として流布されているということとはまったく違うことだ。ピーター・ラビットが好きな子供は気軽にこの映画を見て、その作者についても知ることができる。そしてそれは新たな知識への探究心につながり、好奇心を育てる。それは子供だけでなく大人にも当てはまることだろう。
そしてこの作品はビアトリクス・ポターに焦点を当てながら、その作品を丹念に描く。紙の上で彼女のキャラクターたちが動くその映像は止まっている絵よりもさらにその動物たちをかわいく見せる。そして、ここに登場するビアトリクスが魅力的なのも彼女と作品のすべてを含んだ世界を好ましいものにする。100年も前のイギリスのオールドミスの絵本作家なんていうとどうしても変人で偏屈なようなイメージを抱きがちだが、このビアトリクスはいつも笑顔が優しく、自然を愛し、人間を愛する好人物だ。フランソワ・オゾンが同時期の同じくイギリスの女流作家を描いた『エンジェル』の主人公エンジェルとはまったく正反対だが、私たちが作家に抱くイメージというのはこのエンジェルのほうに近い。
そんな穏やかな主人公だから、物語のほうも穏やかで、あまり劇的なことは起こらない。両親に結婚を反対されたり、出版という業績が評価されなかったちというのはステレオタイプ化された語りだし、愛する人の姉妹と仲良くなるというのもどこかで聴いたような話だ。それでもその経験は彼女の人生そのものであり、それは彼女の作品ともどこかでつながっている。彼女の心は彼女が描く絵と、その絵に彼女が見る動物たちの動きに反映されている。現実と彼女の心と彼女の絵と、この3つをうまく混ぜ合わせて彼女の心を中心とする現実としてまとめたところがこの作品のうまいところなのだろう。
決して刺激的な作品ではないが、ほんわかと見るにはいい。もちろん子供と見てもいい。レニー・ゼルウィガーはすっかりイギリス人の役が増えたが、やはりうまい。取り立ててすごいと感じるところがあるわけではないのだけれど、一人の人物をきっちりと演じきり迷いがないので、演じている間はレニー・ゼルウィガーという役者は完全にいなくなり、ビアトリクス・ポターという人物がそこにいる。存在感を示す役者というのもすごいが、このようにして一人の人物に完全になりきる役者というのもすごい。ユアン・マクレガーのほうはいつどこでもユアン・マクレガーだ(このキャラクターは彼にあっているからいいのだが)。