ザ・マジックアワー
2008/6/6
2008年,日本,138分
- 監督
- 三谷幸喜
- 脚本
- 三谷幸喜
- 撮影
- 山本英夫
- 音楽
- 荻野清子
- 出演
- 佐藤浩市
- 妻夫木聡
- 深津絵里
- 綾瀬はるか
- 西田敏行
- 小日向文世
- 寺島進
- 戸田恵子
- 伊吹吾郎
映画のセットのような町並みの港町・守加護(スカゴ)、そこでホテルの支配人をする備後は町のボス天塩の愛人マリとの情事を見つかってしまう。絶体絶命の備後はボスが探している幻の殺し屋デラ富樫と知り合いだとうそぶき、5日以内に連れてきたら命は助けてやるといわれる。備後は俳優を雇って天塩を騙そうとするが…
三谷幸喜がギャング映画を題材に作り上げたコメディ映画。豪華キャストと軽妙な笑いがロバート・アルトマンを思わせ、いい感じ。
三谷幸喜の前作『THE 有頂天ホテル』は『グランドホテル』をモチーフにしたグランドホテル形式の映画だったけれど、三谷幸喜は元来このような登場人物が多い映画が好きなのではないかと思う。この作品でもたくさんの有名俳優が短い時間登場し、映画に花を添える。その多くは劇中に登場する架空の映画で、中井貴一、唐沢寿明、鈴木京香、谷原章介などが登場、極めつけは『黒い101人の女』の監督役で登場する市川崑。言うまでもないが市川崑監督の代表作『黒い十人の女』のパロディである。2008年に亡くなった市川崑監督の最後の姿となった。
こういうたくさんの有名俳優が出演する映画というとやはりロバート・アルトマンを思い出す。特に『プレタポルテ』や『ショート・カッツ』といった作品は、たくさんの有名俳優が物語の筋とは関係なく出演していた。それが妙に面白かったりすることもあったりして、それはこの作品にも通じるところがある。特に不意に現れる香取慎吾には『THE 有頂天ホテル』を見た人ならついつい笑ってしまうだろう。
三谷幸喜はさすがに笑いのつぼを心得ている。言うなれば誰もが安心して笑うことが出来るコメディ。大爆笑というわけではないけれど、気持ちのいい笑いがテンポよくやってきて、リラックスして楽しく見られる。ついつい笑ってしまうのは予告編でも使われていた佐藤浩市がナイフをなめるシーン、予告編ではそれほど面白くないけれど、本編では鉄板のギャグという感じで笑いが漏れる。その部分以外でも劇中映画の破天荒ぶりなど笑えるところはたくさんある。前述した『黒い101人の女』の“女”のあまりの多さ、唐沢寿明が演じた“ゆべし”なるスターのスターっぷり、このあたりも絶妙の笑いどころだ。
ただ、キャスティングにはちょっと難があったかもしれないという気がする。佐藤浩市、西田敏行、小日向文世、寺島進といった実力派の役者達はさすがにうまく、役柄にも合っている。妻夫木聡はしっかり演技しているけれど、役柄にあっているかといえば今ひとつという気がする。あの役はもっと気が弱そうなキャラクターのような気がして、妻夫木聡ではちょっと凛としすぎている。戸田恵子はおかしいような気もするが、強烈なインパクトで笑える。
深津絵里は演技があまりにオーバーで、最初登場したシーンはセットの作り物じみた感じもあって、このシーンは劇中の映画の撮影シーンに違いないと私の直感が告げた。しかし、そうではなくこれこそが“地”のシーンだった。それ自体はだましとして面白いものなのだが、その後も深津絵里の大げさな演技は続く。まあ魔性の女として男を覚ます演技を続けているということなのかもしれないが、普段からあんな舞台女優みたいな話し方や動きをしていたら魔性の女などにはなれないと思う。
綾瀬はるかにいたっては、どうしてキャスティングされたのか今ひとつわからない。役としては必要だが、もっと地味な役者が演じたほうがよかったのではない。綾瀬はるかではかわいすぎて役柄に合わない。
このように役柄に合わないというのはキャスティングに難があるというのもあるが、演出にも多少難があるのではないかと思う。名監督は役者が本来持つイメージとは異なる役であっても演出によってふさわしい演技を引き出すものだ。それで映画が面白くなり、同時に役者には新しい境地が開ける。三谷幸喜は笑いを作るという点ではさすがに一流だが、映画監督として役者を扱うのはまだまだ一流ではないのかもしれない。
優秀なスタッフと莫大な予算をかけただけのことはあるけれど、名作というまでには至らない。三谷幸喜が名監督になるのはまだまだ先のことのようだ。