馬鹿まるだし
2008/8/22
1964年,日本,108分
- 監督
- 山田洋次
- 原作
- 藤原審爾
- 脚本
- 加藤泰
- 山田洋次
- 撮影
- 高羽哲夫
- 音楽
- 山本直純
- 出演
- ハナ肇
- 桑野みゆき
- 清水まゆみ
- 藤山寛美
- 犬塚弘
- 三井弘次
- 植木等
田舎町に現れた兵隊服の男安五郎は泊めてもらった寺で泥棒を捕まえて、その家のご新造さんにひそかな想いを寄せたこともあってそのまま寺男として住み込むことに。そんなある日、旅芸人の一座の力男と町の有力者の娘が駆け落ちしてしまう。安五郎はその娘を連れ帰すべく一座に乗り込むが…
山田洋次とハナ肇による“馬鹿”シリーズ第1作。軽妙でテンポのよいコメディで「クレージー」シリーズとはまた違うハナ肇の面白さを感じさせてくれる。
この作品のモチーフは、作中にも登場する「無法松の一生」、美しいご新造さん(若い奥さんのこと)に一目惚れというよりは敬愛の念を抱いて、ご新造さんのためなら命も惜しくないというほどの思いで活躍する。しかし、この主人公の安五郎は少々頭が弱いというか凄く単純な男で、いろいろと面白いことが起きるというのがこの映画の眼目というわけだ。
ハナ肇は声もでかいし動きも派手で、出ているだけでインパクトがある役者だ。この作品でもその後の作品でもちっともうまいと思ったことはないけれど、スクリーンに収まると存在感があっていい役者なんだと思う。クレージーキャッツの映画では植木等に主役の座を譲ることになるけれど、役者としての魅力は植木等にも劣らない。
その植木等はナレーションという形でこの作品に参加、最後には姿を見せるけれどキャストに名前はない。これはクレージーキャッツのメンバーの中で植木等のみが東宝と専属契約を結んでおり、松竹の作品に出演することができなかったからである。クレージーキャッツという人気絶頂のグループだからこそのぞかせる黄金時代の日本映画の歪んだ一面でもある。
まあ、しかし作品としては軽快で楽しい作品だ。山田洋次というとやはり「寅さん」で、その後もどこかヒューマンドラマ的なものを取るという印象があるが、デビュー作は『二階の他人』というコメディで、その後も主にコメディを撮っている。まあ「寅さん」もそもそもはコメディ映画だし、「釣りバカ日誌」だってそうだ(くしくも20数年後に“バカ”に回帰したということか)。
山田洋次の才能というのはおそらくキャラクターの創造にあるのではないかと思う。作品の中心となるキャラクターを重要視するから同じ役者とくり返し仕事をし、満足できるキャラクター像を作っていく。最初はハナ肇、次に渥美清、さらに西田敏行というわけである。その意味でこの作品は山田洋次のキャラクター創造の原点と言う意味で面白い作品なのかもしれない。
そしてそのモチーフが「無法松の一生」にあったというのもいかにも山田洋次らしい。「無法松の一生」の主人公・松五郎が車引きであるというのと、寅さんの苗字が“車”であるというのは偶然の一致だろうか。松五郎と安五郎と寅さんの間には純粋で要領が悪いが、人情に厚いという共通点がある。それは“浜ちゃん”もしかりなのだ。
結局、山田洋次は40年以上にわたって、同じようなキャラクターを主人公に映画を作り続け、その原点がこの作品ということになるのだと思う。そして彼の作り上げたキャラクターは日本人みんなに愛されるキャラクターとなる。面白いものだ。