香華 前篇
2008/9/25
1964年,日本,116分
- 監督
- 木下恵介
- 原作
- 有吉佐和子
- 脚本
- 木下恵介
- 撮影
- 楠田浩之
- 音楽
- 木下忠司
- 出演
- 岡田茉莉子
- 乙羽信子
- 三木のり平
- 岡田英次
- 北村和夫
元号が昭和に変わり、旦那の神波から旅館を与えられ女将に納まった朋子はかたぎの生活を送りながら江崎への思いを募らせていた。しかし、神波がなくなったことを知ったその日、江崎が旅館にやってきて朋子の母郁代が女郎をしていたことを理由に結婚は出来ないと告げて朋子のもとから去ってしまう…
母と娘の愛憎を描いた有吉佐和子のベストセラーの映画化。2部構成のその後篇。
前篇では乙羽信子が抜群の存在感を示したが、この後篇では岡田茉莉子が代わって中心となる。母親に売り飛ばされて静岡の旅館で内芸者としての修行を積んだ岡田茉莉子演じる朋子は東京に出てきてすぐに華族の神波に見初められその二号となることで花柳界から足を洗う。そして、彼女が築地の大きな旅館の女将として収まったところからこの後篇がはじまる。
朋子は母親の郁代とはまったく違う性格で、郁代の身勝手さを受け継ぐことはなく、一途で義理堅い性格である。軍人の江崎を一途に思いながら、自分を支援してくれた神波に義理立てして神波を裏切ることはしない。そして、ついに神波がなくなり、江崎と一緒になれると思ったとき、郁代が女郎だったことが知れ結婚を断られてしまうのだ。これ以上に彼女に答えることはない。その悲劇の原因を作った母を朋子は憎むのだが、しかしその母をも突き放しきれない。母親らしいことを何一つしていないどころか、彼女からむしりとってばかりの郁代を彼女は憎みきれず、いつも最後には受け入れてしまうのだ。
この朋子を岡田茉莉子はなかなかうまく演じてはいるのだが、郁代と比べるといかんせん人物としての魅力が薄い。芸者から二号になり、日陰の人生を送ってきてようやく旅館の女将という堅気の商売に収まった朋子だが、おそらく世間からは愛人から与えられたということで白い目で見られていたりするのだろう。朋子はそのような社会からの風当たりの強さをまったく見せない。最初こそ野沢という芸者時代からの常連に頼るのだが、その後は完全に腕一本でやっていく。そのたくましさとそれを完遂してしまう力強さがどうも魅力的ではないのだ。
身勝手でわがままで娘を売り飛ばしてしまうような郁代はどう考えてもひどい人間で、それはこの後篇でもいかんなく発揮されているのだが、その郁代のほうがそんな郁代を受け入れる智子より魅力的に見てしまうのはどういうわけか。
そう考えてみると、朋子の人生はあまりに損な人生だった。それを朋子は郁代のせいだというが、彼女自身も心のそこでは感じているように、実は彼女自身のせいなのだ。結局彼女は誰にも心を開ききることはなかったのだ。最愛の江崎にも母が女郎であったことを自ら告げることは出来なかった。そのかたくなさが不幸を呼んでしまったのだろう。対する郁代のほうは身勝手ではあるが、人に心は開いている。だから彼女は最終的に彼女を大事にしてくれる人を自分の人生に呼び込むことができた。
なんともやるせない話だが、見終わっていやな感じがするというわけではない。人生はいろいろ、幸も不幸もひっくるめてそれが人生、まあ当たり前といえば当たり前だが、そんな当たり前のことが時には意味があったりするのだ。