4ヶ月、3週と2日
2008/10/10
4 Luni, 3 Saptamani si 2 Zile
2007年,ルーマニア,113分
- 監督
- クリスティアン・ムンジウ
- 脚本
- クリスティアン・ムンジウ
- 撮影
- オレグ・ムトゥ
- 音楽
- ダナ・ブネスク
- 出演
- アナマリア・マリンカ
- ローラ・ヴァシリウ
- ヴラド・イヴァノフ
- アレクサンドル・ポトチェアン
1987年、ルーマニア。オツィリアは学生寮でルームメイトのガヴィツァに頼まれ、ボーイフレンドからお金を借り、こっそりとホテルに部屋を取る。さらに会ったことも無い男と待ち合わせ、その男をガヴィツァが待つホテルに連れて行く…
2007年のカンヌ映画祭でパルム・ドールに輝いたルーマニア映画の力作。
ルーマニアと映画はなかなか結びつかないが、このところヨーロッパを中心に映画祭などでもかなりの数が上映されるようになってきているらしい。これまでかなりマイナーだったのはやはり20年前まではチャウシェスクの独裁政権による社会主義がひかれていたせいだろう。映画先進国であるソ連の映画ならいざ知れず、他の東側諸国の映画というのはほとんど(ポーランドは例外として)日本に入ってきていなかったと言っていい。それはおそらく日本以外の西側諸国でも同じことだったろう。この作品は、その社会主義時代を描き、しかもパルム・ドールを受賞したということでエポック・メイキングな映画だといえるだろう。この作品のおかげでおそらくルーマニア映画は普通にマーケットに乗るようになり、もっと日本にも入ってくるはずだ。
という作品の社会的な意味にまず目が行ってしまうのは、この映画が作品としてはそれほど秀逸な出来というわけではないからだ。手持ちで長まわしを多用した映像は緊張感があっていいし、光量を抑えながらもコントラストを強くした映像の質感もざらざらとした空気を伝えるようでいい。社会主義国家の人々の官僚主義的な怠惰さがうまく描写されているし、その社会の閉塞感も伝わってくる。
しかし、そのような周辺的なものばかりが面白くて、物語のほうは今ひとつだ。テーマが重いからもっと哲学的だったり問題を投げかけたりするのかと思ったが、実際は主人公が回りに振り回されて不幸を一身に背負ってしまうという“不幸物語”である。被害者面したルームメイトはあつかましくもオツィリアの友情に甘え、ボーイフレンドは理解している振りをして実際は彼女を軽蔑している。それでも彼女は友だちのため恋人のために尽くし、つらい仕事ばかりを背負い込んでしまうのだ。
重いというよりはただただきつい。自分さえよければいいという人ばかりで出来上がった世界の中にひとり放り込まれた正直者、そのきつさを描いた映画なのだ。ここで描かれているのがこんな世界なのは、何もルーマニアが社会主義だったせいだとは思わないが、こんな世界だったら本当にいやだ。
いったいこの作品をどう見ればいいのだろうか。この主人公の痛みを感じたとき、周囲の無神経さに対してどう反応するか、その自分の反応を見ることでいくばくかの自己分析が出来るかもしれない。もしそこから、自分は知らず知らずのうちに自分勝手になっていないだろうかと問い直したなら、あなたは自分勝手であるはずは無いと思う。
ルーマニア映画といえば、2007年の東京国際映画祭で上映された『カリフォルニア・ドリーミン(endless)』は面白かったが、DVD化されないのだろうか…