アンナと過ごした4日間
2008/10/25
Cztery noce z Anna
2008年,フランス=ポーランド,94分
- 監督
- イエジー・スコリモフスキ
- 脚本
- イエジー・スコリモフスキ
- 撮影
- アダム・シコラ
- 音楽
- ミハウ・ロレンツ
- 出演
- アルトゥール・ステランコ
- キンガ・プレイス
病院の焼却係として働くレオンは向かいの寮に住むその病院の看護婦アンナに思いを寄せ、夜な夜なあんなの部屋を除き見ていた。祖母が急に亡くなり、人員整理で仕事も失ったレオンの行動はエスカレートし、アンナの部屋に侵入するようになる…
ポーランドのベテラン監督イエジー・スコリモフスキが偏執的な愛情を描いたサスペンス・ドラマ。
ポーランド映画というのはみんなこうなのか、とついつい思ってしまう。灰色の空、十分ではない証明で暗い部屋、薄汚れた服装、そして異常な愛情。寒い国の人々は感情を心の奥に閉ざす。明るく開けっぴろげなラテン系と、暗く閉鎖的なスラヴ系、まあ偏見ではあるが間違いなくスラヴ系であるポーランド人はみな心に秘密を抱えているようだ。
明るい色彩でヨーロッパのみならず日本の観客をも魅了したクシシュトフ・キエシロフスキでも、そこに登場する人々の多くは心に闇を抱え、それを隠し、それが他所との見えない軋轢を生んでいた。この『アンナと過ごした4日間』は2008年の東京国際映画祭のコンペ部門に出品されたのだが、その前年に同様にコンペに出品されたポーランド映画『ワルツ』(ビデオタイトル『ホテル・ワルツ』)もまた暗さと秘密を抱える作品だった。
このようにポーランド映画というとどうしても“暗い”と印象が付きまとうわけだが、不思議なことにその暗さにもかかわらずどこか温かみもある。この作品の主人公オクラサが夜な夜なアンナの部屋に侵入するのは愛ゆえであり、アンナに対する優しさの表れなのである。もちろんその気持ちはあくまでも一方的で受けてのことは考えていないわけだが、観ているわれわれとしても嫌悪感を感じるよりはむしろ、その行動の温かみに癒される感じがしてしまう。
この一方的で異常な愛情を“愛”として描き、彼のストーカー行動に“温かみ”を見せてしまう。そのなんとも不条理な構造によってこの作品は何を語ろうとしているのか。祖母が死に、仕事を失うことで完全なる孤独の淵に沈んでしまったレオン、彼の人とのつながりを求める心がアンナを求め、正常な交流を持つことが難しい彼は異常な行動に走る。
しかし、その愛の矛先が自分が目撃したレイプ被害者であるアンナに向いたのはいったいなぜなのか。繰り返し映される取調べの場面は何を意味しているのか。私はそれがレオンの虐げられたもの同士でつながりたいという欲求を説明しているものなのではないかと思う。そしてその哀しさがこの物語の核心なのだろう。