サウスランド・テイルズ
2008/11/9
Southland Tales
2007年,アメリカ=ドイツ,144分
- 監督
- リチャード・ケリー
- 脚本
- リチャード・ケリー
- 撮影
- スティーヴン・ポスター
- 音楽
- モービー
- 出演
- ドウェイン・ジョンソン(ザ・ロック)
- サラ・ミシェル・ゲラー
- ショーン・ウィリアム・スコット
- マンディ・ムーア
- ジャスティン・ティンバーレイク
2005年、テキサスに核爆弾が落とされ第3次世界大戦が勃発、それから3年後、大統領選を控えたアメリカでは“US認証”という機関が作られ個人のプライバシーは崩壊、それが大統領選の争点ともなった。そんな中、共和党党の大統領候補の娘婿でアクション・スターのボクサー・サンタロスが行方不明になるが、そのボクサーは記憶喪失になっていた…
『ドニー・ダーコ』のリチャード・ケリーが6年ぶりに監督したSFサスペンス。複雑すぎてわけがわからない偉大なる失敗作。
一言で言えばわけがわからない。話を整理してみると、主人公のボクサーは共和党の大統領候補の娘婿で、行方不明になり、本人は記憶喪失でポルノ女優のクリスタのところにかくまわれている。そのクリスタは“ネオ・マルキスト”とつながりがあり、ネオ・マルキストは個人の生活を監視する政府機関“US認証”を廃止するための法律「法案69」をめぐって共和党と対立しているらしい。
また、テキサスへの核攻撃を発端にはじまった第3次世界大戦は石油不足によって息切れしてきているが、“男爵”なる人物が潮流を使って半永久的に電気エネルギーを無線送信できる技術を開発し、その男爵は大統領候補と手を組んでいるらしい。ボクサーのほうはクリスタと映画の脚本を書き、そこには世界の終末へのシナリオが書かれていて、それに“男爵”の仲間が興味を持つ。
さらには、ネオ・マルキストの仲間の一人には警察官の双子の兄がいて、警察の横暴を暴いて法案69を成立させるべく狂言芝居を計画して、それに有名人であるボクサーを巻き込もうとする。
とまあ、こんな風に説明しただけでもわけがわからないわけだが、映画のほうはさらにそれらすべての状況を見通すナレーター的な存在としてパイロットなる人物も登場し、これらの登場人物の行動が細切れに説明もなくつながっていく。途中から新しい登場人物も次々登場し、陰謀や裏切りもあって、何がどうなっているのかはどんどんと混乱の極みに陥って行ってしまう。
おそらく世界の混乱した状況を描くべく、混乱した物語を提示しているということなのだろうけれど、見ているほうもすっかり混乱してしまって、いったいそこで何が起こっているのかまったく理解できず、映画から完全においてかれてしまう。最初の1時間かせいぜい1時間半くらいはついていこうと努力をすればついていけないこともないのだが、それを過ぎるとまったくもって理解の埒外のわけのわからない話になってしまう。2時間を越えるこの作品を最後まで集中して見通すには相当の忍耐力が必要だろう。
とまあ、本当にわけのわからない映画なのだが、この監督のシニカルな笑いのセンスは捨てたもんではないと思う。共和党大統領候補のブッシュにどことなく似ているが限りなく間抜けな顔、ポルノ女優クリスタが出すCDの「十代の性欲は犯罪ではない」というふざけたタイトル、“US認証”の職員たちがユニフォームとして着ている安っぽいレインコート、それらからはもっともらしく振舞っている人たちのバカさ加減をあざ笑う皮肉が滲み出す。
おそらくすべてを皮肉ってしまったためにまともなものが何も残らず、わけがわからなくなってしまったのだろう。そう考えるなら、まともな人が本当に真面目に考えてしまった時に陥る混乱状況をそのまま表現してしまったととらえることも出来る。まあ、そうとらえたところで何の特にもならないのだが、今の世の中ってのは相当に狂ったものなんだということを見事に表現した偉大な失敗作だと言うことは出来るかもしれない。