帰らない日々
2009/1/25
Reservation Road
2007年,アメリカ,102分
- 監督
- テリー・ジョージ
- 原作
- ジョン・バーナム・シュワルツ
- 脚本
- テリー・ジョージ
- ジョン・バーナム・シュワルツ
- 撮影
- ジョン・リンドレー
- 音楽
- マーク・アイシャム
- 出演
- ホアキン・フェニックス
- マーク・ラファロ
- ジェニファー・コネリー
- ミラ・ソルヴィノ
- エディ・アルダーソン
大学教授のイーサンの家族は息子ジョシュのチェロの発表会を終え家路に着く。弁護士のドワイトは離婚した妻ルースとの間の息子ルーカスをレッドソックス戦に連れてゆき、遅くなってしまったことにあせりながらルースの家に向かっていた。イーサン一家がガソリンスタンドで停車し、道端に出ていたジョシュをドワイトが轢いてしまい、イーサンは怖くなってそのまま逃げ去ってしまう…
『ホテル・ルワンダ』のテリー・ジョージ監督がひき逃げ事故をめぐる家族の姿を描いたサスペンスドラマ。
ひき逃げ事故がおき、息子を失った家族とひき逃げをした男の両方がそれぞれにプロットを背負う。いったいこれからどうなっていくのだろうかという緊張感が映画から漂ってくくる。
息子を失った家族はその喪失感にさいなまれ、文字通り仕事も手につかず、うつろな日々を過ごす。ひき逃げした男のほうは子供を殺してしまったという衝撃とつかまることへの恐怖、逃げていることへの良心の呵責を抱えて徐々に精神が蝕まれていく。
息子を失った家族の父親イーサンはその犯人を見つけること、そして罰することに没頭することで喪失感を埋め合わせようとする。ひき逃げした男ドワイトのほうは自分の個人的な事情(息子と会えなくなってしまうという恐れ)でその場から逃げてしまったことを後悔し続ける。
この映画は怖い。不幸な状況が重なったことによって起きたひき逃げ事故、もちろん逃げたのは悪いがパニックに陥ってしまったことでドワイトのように誤った判断をしてしまうことはありえることだ。そのありえるかもしれない状況から悲劇に見舞われたイーサンとドワイトの精神が蝕まれてゆく、その進展の仕方は本当に怖い。シリアスなドラマなのだけれど、サスペンスというのはそこの部分があるからだ。
真面目な話だから教訓めいたメッセージが発せられていると思いがちだが、これはそんな作品ではないと思う。こうならないように安全運転しなさいとか、正直になりなさいとかいうことではなく、この恐怖を味わうことこそが映画の醍醐味なのだ。
ただ、ドワイトが弁護士としてイーサンに事件の調査を依頼されるという段になるとちょっとその偶然性が恣意的過ぎて強引に感じなくもない。ただドワイトが自首するのを引き伸ばすためにそんな展開にしたのだとは思うが、被害者と加害者の関係はもう少し希薄なほうが被害者が加害者に徐々に近づいていくという感じが出せて面白かったのではないか。
しかしいわゆるホラーとかクライム・サスペンスではないサスペンスとして恐怖を描いた作品としてはいい出来だと思う。非常に真面目に作られている作品だけれど決して普通ではない。前作の『ホテル・ルワンダ』でもそんなことを感じたけれど、この監督は観客に「その先」を考えさせるつくり方をする。映画が観客と現実との媒介となり、観客に現実を考えさせるのだ。地味だけれどこれからもいい作品を撮るのではないかと感じる。