どら平太
2009/2/2
2000年,日本,111分
- 監督
- 市川崑
- 原作
- 山本周五郎
- 脚本
- 黒澤明
- 木下恵介
- 市川崑
- 小林正樹
- 撮影
- 五十畑幸勇
- 音楽
- 谷川賢作
- 出演
- 役所広司
- 浅野ゆう子
- 宇崎竜童
- 片岡鶴太郎
- 石橋蓮司
- 石倉三郎
- 大滝秀治
- 江戸屋猫八
- 岸田今日子
- 菅原文太
ある小藩の町奉行に任ぜられた望月小平太は奉行所には顔を出さず、その豪放磊落ぶりから“どら平太”とあだ名されていた。しかしその“どら平太”、実は江戸にいる藩主からの密命を受けてその藩の壕外と呼ばれている地域の悪の一掃とそれにつるむ藩の重臣の追求を行おうとしていた…
69年に結成された「四騎の会」の黒澤明、木下恵介、市川崑、小林正樹が共同脚本で執筆しながらお蔵入りとなっていた企画を市川崑が映画化。原作は山本周五郎の短編で、三隅研次が59年に勝新主演で『町奉行日記 鉄火牡丹』として映画化している。
役所広司扮する町奉行が酒好き女好きのしょうもない武士のふりをして壕外と呼ばれる無法地帯に入り込む。そしてそこにはびこる悪の根を絶ち、さらにはその壕外とつながっている反の重臣をも一網打尽にしようという痛快な物語である。しかもこの町奉行望月小平太がめっぽう強い。どんな奴がかかってきても腕一本でねじ伏せ、何十人もがいっぺんにかかってきてもすべて峰打ちでなぎ倒す。
この作品の白眉は“どら平太”と呼ばれる望月小平太のキャラクターに尽きるだろう。これだけバカみたいに強くて頭がよくて憎めない性格の人物がいたはずはないのだが、こういう桁違いのヒーローというのはやっぱり魅力がある。そして役所広司はそのどら平太を本当にうまく演じている。役所広司はいまや間違いなく日本を代表する俳優だが、やはりいいというしかないのだろう。
しかし、大監督4人の共同脚本という割にはホンはさえない。原作が「町奉行日記」というだけに町奉行の日記のくだりは導入として必要なのだろうが、特にプロットに関わってくるわけでもなく、笑いを生み出すわけでもなく、あまり必要がないといえばない。それに浅野ゆう子の演じる役は1シーンに限っては緊張感を生み、一つの展開を生んだからよかったのだが、それ以降はまったく必要がない。
まあそんな脚本だからお蔵入りになったのかもしれないが、そうならば映画化に際してもっと練ってもよかったはずだ。市川崑としても当時すでに亡くなっていた2人の先輩と1人の後輩に敬意を払って脚本を変えなかったのかもしれないが、それでは30年を経て映画化した意味はあまりない。むしろ市川崑の現代的な感覚を生かして大胆に変えたほうが、3人へのはなむけとなったのではないかなどと考えてしまう。
さらに、出演者に本職の役者以外を使うというのは市川崑の相変わらずの傾向だが、今回はそれが今ひとつはまっていない。重要な役どころを担うことになった宇崎竜童と片岡鶴太郎はどう見ても力不足、宇崎竜童は黙ってうつむいてりゃ重々しく見えると思っているようだし、片岡鶴太郎は演技が大げさすぎてコントにしか見えない。
逆に菅原文太を中心とする悪役3人のほうはピタリとはまっていた。大げさではあるが、時代劇というものは戯画化されていてもいいものだから、これでもいい。もっとどら平太とこの悪役達との関係を描く部分を多くして、心理的な駆け引きを中心にプロットを組んだら面白くなったのではないかと思う。
この原作には59年に作られた『町奉行日記 鉄火牡丹』という作品もあるのだが、こちらのほうは勝新主演の非常にあっけらかんとしたエンターテインメントで面白かった。勝新と役所広司は対極に位置するような小平太像だから比べてみても面白いかもしれない。