紅の翼
2009/7/30
1958年,日本,93分
- 監督
- 中平康
- 原作
- 菊村到
- 脚本
- 中平康
- 松尾昭典
- 撮影
- 松山崇
- 音楽
- 佐藤勝
- 出演
- 石原裕次郎
- 中原早苗
- 二谷英明
- 峯品子
- 西村晃
- 芦川いづみ
会社社長が何者かに銃で殺される。そのころ日本遊覧航空のパイロット石田は遊覧飛行中。帰ってきたところで八丈島に破傷風の血清を運んで欲しいという緊急の依頼が来る。チャーターで出発予定の双発機が故障でセスナ機で飛ぶこととなり、石田が操縦することになるが、その客が実は…
石原裕次郎主演の航空サスペンス映画。それなりにスリルもあり、クールな裕次郎も見れて満足。
56年にデビューした裕次郎はこの作品が作られた58年にはすでに大スター、この年の出演作は9作を数える。監督も裕次郎の出世作『狂った果実』を撮った中平康でかって知ったるコンビである。
だからこの作品、安心して見ることができる。最初の殺人のシーンで殺し屋が逃走し様という時に子供がその車の前に飛び出してくるのだが、そのつなぎが見事、アクション映画のお手本のほうですんなりと作品に入っていくことができる。
裕次郎のほうもクールでポーカーフェイスを崩さず余分なことはしない。二谷英明との駆け引きと格闘、これがサスペンスとアクションのふたつの要素をいっぺんに目指す。飛行機という限られた空間、血清を運ばなければならないというタイムリミット、これらがうまく映画にスリルを与えていく。
というわけで裕次郎映画として及第点の出来というわけだが、この裕次郎演じる石田が操縦する飛行機が消息を立ったために生じる地上での騒動はどうも余計という気がする。確かに、つくはずの飛行機がつかなければ騒動が持ち上がり、関係者は集まり、警察や海上保安庁なんかが捜索に乗り出すことになるわけだが、そのエピソードは裕次郎映画としてのこの作品には不必要な要素だ。
にもかかわらず多数の飛行機が待機している様子だとか、船団が出発する様子だとか、心配する家族だとかをことさらに映す。これがどうもアクション映画としてのスピード感を殺してしまっている気がしてならない。そういうシーンがまったくなければないでまた疑問に思うのだろうが、アクション映画としてはあくまでも言及に留めておくべきだった。
さて、裕次郎映画のヒロインといえば北原三枝か芦川いづみと相場が決まっているわけだが、この作品では芦川いづみは出番の少ない妹役でヒロインは中原早苗、まあ悪くないが印象も薄い。この役を芦川いづみがやればもっと印象的だった気もするが…
まあ年に約10本というペースで量産されていた裕次郎映画、傑作もあれば駄作もあり、そうしてこういう平凡な作品もある。飛行機という素材の珍しさが当時はあったのだろうけれど、今はそれもなく、八丈島の牧歌的な風景や今からは想像も出来ない羽田の情景が逆に見所といえば見所かもしれない。
ノスタルジーを感じたい人にはオススメ。