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ミツバチの羽音と地球の回転

ミツバチの羽音と地球の回転

祝島とスウェーデンから考える生活と原発とエネルギーの未来
★★★★-

2010/5/21
2010年,日本,125分

監督
鎌仲ひとみ
撮影
岩田まきこ
秋葉清功
山本健二
音楽
Shing02
出演
ドキュメンタリー
preview
 瀬戸内海に浮かぶ祝島、その島の向かいにある上関に原子力発電所が建とうとしている。28年に渡り反対運動を続けてきた祝島の人々は毎週欠かさずデモ行進を行い、埋め立て用のブイが打ち込まれそうになると漁船をもやいでつなぎ、工事用の船が出港できないようにしてきた。この長く孤独な戦いに終わりは来るのか…
  『六ヶ所村ラプソディ』の鎌仲ひとみ監督が祝島とスウェーデンでロケを敢行し原子力と再生可能エネルギーについて考えた社会派ドキュメンタリー。
review
ミツバチの羽音と地球の回転

 この作品のスタンスははっきりしている。それはズバリ上関原発に反対する祝島の人々を支持するということだ。とは言ってもそのために作られた映画というわけではなく、反対運動をする人々の思いに賛同するがゆえにそのような主張をするにいたった映画だ。

 だから、その意思表明は非常に丁寧にそして心に響く形で作られている。漁業や農業で暮らす祝島の人々。その中で島で唯一の若者と言っていい山戸さんは海辺でひじきを採り、山で枇杷を栽培し、父親とともに反対運動に献身する。彼が反対する理由は明確だ。それは原発が建つことによって環境が破壊されること、いくら環境は破壊しないといわれたところでそれに説得力はない。暖められた水が海に放出され、人体に影響がない量とはいえ放射能が放出される。それは自然に変化をもたらすに十分であり、さらには風評被害をもたらして祝島の漁業や農業に壊滅的な打撃を与える。だから、生活するために反対するしかないのだ。

 そんな反対の理由を補強するために登場するのが一本釣り専門の漁師、何十年やっていても潮を完全に読むことはできないと語り、冷却水が放出されたら潮がどうなってしまうのかはまったく想像がつかないと語る。

 そう、原発が建設されれば環境が変化し、生活が一変することは間違いない。この映画はそれを生活者の実感としてわれわれに提示する。環境保護団体がヒステリックに「海を汚すなー!」と叫んでいる現実感のない反対運動ではなく、今まさに生活が破壊されようとしている人々の反対運動であり、本当に今止めなければ取り返しがつかないということがひしひしと伝わってくる。

 そんな事実を提示した上で、それでも原発を建てる必要はあるのか?ということを検証するために制作チームはスウェーデンへ飛ぶ。スウェーデンには自前の風車を持つ小規模な自治体がある。そこではエネルギー自給が実現され、暖房も間伐材などを利用してセントラルヒーティングで行われている。それ以外にも環境裁判所の存在や、地方議員が無給(ボランティア)であるとか、日本とはまったく異なるシステムが存在していることが明かされる。

 その上今度は日本へと戻り、六ヶ所村を訪れる。いまだ稼動しない再処理工場の脇で電気を生み出す風車がある。原発は作るのに何十年もかかるが、風車は4分、もちろん4分というのは組み立て時間で、部品を作るのにはもっと時間がかかるわけだが、それでも原発と比べるとはるかに簡単に作ることができる。

 まあこの作品の問題はこれ以外の視点を一切入れようとしないという点にあることは間違いない。祝島にも原発に賛成している人もいるが彼らは登場しないし(賛成派と反対派の住民の間には微妙な関係が何十年にも渡ってある)、原発に賛成する人たちの意見にも触れない。

 でも、原発をやめて再生可能エネルギーで未来を切り開こう!という立ち位置から発言しているのだからそれでいいのだ。もちろんそれとてバラ色の未来が待っているわけではないけれど、そんなひとつの選択の利点について訴えるのがこの映画の意味なのであり、疑問に思ったなら、その人が自分で調べ、考えればいいことだ。

 ドキュメンタリーは中立的でなければいけないという考え方もあるが、映像作品なんてものは必ず制作者の視点から作られるもので、それが中立であるなんてことは本来ありえない。なるべく中立であろうというのもひとつのスタンスだし、自分の個人的な信念に従うというのもひとつのスタンスだ。それが露骨になり、見るものを洗脳しようという意図を持つようになるとそれはプロパガンダとなり、警戒すべきものとなるわけだが、主張するだけなら問題はないはずだ。

 しかも、この作品が扱うエネルギー問題というのは、原発を推進する側が圧倒的な力を持っている。その力の前には人々のか細い声は容易に押しつぶされてしまう。それを考えれば、この映画が放つ一方的な言説は戦うための武器であるのだ。

 そして、この作品はポジティブな未来像へのヒントを持ち出すことで見る者を味方に引き込もうとする。自然が破壊されて原発が次々と建ち、でも電気は潤沢にある社会と、電気を節約する努力は必要かもしれないけれど、自然は破壊されず再生可能エネルギーで成り立つ社会、そのどちらが望ましい未来だと思いますか? と私たちに問いかけてくるのだ。

 この映画を見て原発に反対するようになるかどうかは分からないが、まずこの祝島の人たちの気持ちを感じ、そこから自分が何をすべきかを考えて欲しい。私は、なるべく多くの人にこの映画を見てもらうことがまず私にできることだと考えた。

ミツバチの羽音と地球の回転 ミツバチの羽音と地球の回転
Database参照
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監督順: 
国別・年順: 日本90年代以降

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