ルビー&カンタン
2005/2/14
Tais Toi !
2003年,フランス,85分
- 監督
- フランシス・ヴェベール
- 原案
- セルジュ・フリードマン
- 脚本
- フランシス・ヴェベール
- 撮影
- ルチアーノ・トヴォリ
- 音楽
- マルコ・プリンス
- 出演
- ジャン・レノ
- ジェラール・ドパルデュー
- リシャール・ベリ
- アンドレ・デュソリエ
- レオノア・ヴァレラ
間抜けな銀行強盗をしてつかまった簡単は、くだらないことをしゃべってばかりで同房の囚人といつも喧嘩になり、相手を打ちのめして独房に入れられていた。一方、ルビーは現金輸送車から強盗が奪った現金を横取り、捕まるが何もしゃべろうとしない。この事件にボシェルが絡んでいると考えた警察は、ルビーの口を割らせるためにカンタンをルビーの房に入れることを考える…
ジャン・レノとジェラール・ドパルデューというフランスの2大スターが共演したサスペンス・コメディ。監督は『奇人たちの晩餐会』『メルシィ!人生』のフランシス・ヴェベール。
アメリカン・コメディの馬鹿笑いもいいけれど、フレンチ・コメディのこういう笑いもいい。コメディというジャンルは、作っている監督や出演者のお国柄がもっとも強く出るジャンルではないだろうか。アメリカン・コメディにもいろいろあることは確かだけれど、基本的にそこに漂うのはエンターテインメントという雰囲気、それはいわばラス・ヴェガス的な笑い、とにかく観客を楽しませることだけを徹底的に追求して行く笑い。ただ、その傾向に対してひねりを加える意味で作られたいわゆるB級コメディというのも結構たくさんある。ラス・ヴェガス的な王道のエンターテインメント・コメディと、ひねりと毒の効いたB級コメディ、このふたつがアメリカン・コメディの中心になるのだと思う。
それに対して、フレンチ・コメディというのはクセが強い。大まかな傾向を言えば、『ぼくの伯父さん』以来の伝統かどうなのかはわからないが、“おじさん”が主人公になる作品が結構多く、なんとなく独特の“体臭”のようなものが漂う。いうなれば、チーズのような、クセが強ければ強いほど、臭ければ臭いほどうまい、そんなコメディなのではないかと思う。もちろん今はアメリカのコメディの影響を強く受けているから、ドタバタのエンターテインメントものも多いけれど、そういう作品は別にフランスじゃなくても作れるわけで、今ひとつ魅力を感じない。
ついでに言えば、ブリティッシュ・コメディというのはどこかに暗さがあるような気がする。観客から笑いを引き出すという意味ではかなり強烈ではあるのだけれど、なぜかそこに能天気が感じられず、“翳”があるのだ。それがあるいはウィットというモノなのかもしれないけれど、ただ笑うだけでは下品だという心理がどこかで働いているのではないだろうか。
話は、フレンチ・コメディに戻って、この作品もそんなチーズのようなコメディの典型的な作品。主役のふたりはものすごくあくの強い二人の“おじさん”、そしていきなりジェラール・ドパルデュー演じるカンタンのキャラクターがものすごく強烈。というわけで、決して爆笑に告ぐ爆笑というわけではなく、時折クスリとするだけなのにコメディとして立派に成立してしまっているという印象がある。振り返ってみると、面白いギャグとか大爆笑のシーンとか行ったものは一切ない、しっかりとした物語があって、スピード感があって、主人公のふたりが世界観を築き上げていて、しかしそれ以上の何かがあるわけではない。しかし、映画を観終われば「おもしろかった」と思うし、間違いなくコメディを見たという印象なのだ。
フランス映画といえば、ヌーベルバーグとか、あるいはおしゃれな感じとか、哲学的とか、そういう映画に目が行きがちだが、実はフランス映画の真髄はコメディにあるのではないか。映画が様々に変化して行く中で、変わらずあり続けるコメディ映画、それが実はフランスの映画を支えているのではないかと思うのだ。 少々、大風呂敷を広げすぎた感もあるが、コメディがフランスの映画にとって重要だということは確かだろう。この映画のしっかりとしたつくりと、それにもかかわらず軽さを持つ仕上がりを見ると、そんなことを感じずにはいられない。