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NOTHING ナッシング

2006/2/28
Nothing
2003年,カナダ=日本,89分

監督
ヴィンチェンゾ・ナタリ
原案
デヴィッド・ヒューレット
脚本
アンドリュー・ロウリー
アンドリュー・ミラー
撮影
デレク・ロジャース
音楽
マイケル・アンドリュース
出演
デヴィッド・ヒューレット
アンドリュー・ミラー
ゴードン・ビンセント
マリ=ジョゼ・クルーズ
preview
 非常な怖がりで家から一歩も出ずに暮らすアンドリューと、彼の家で一緒に暮らすと9歳のときからの親友デイブ。デイブは恋人と暮らすためアンドリューの家を出ると告げるが、その日彼は横領の疑いで会社をクビになってしまい、その犯人が恋人だと思っていたサラだった…
 『CUBE』『カンパニー・マン』にも出演した俳優のデヴィッド・ヒューレットの原案を『サイモン・セズ』の脚本を書いたアンドリュー・ロウリーとアンドリュー・ミラー(『CUBE』にも出演)の役者コンビが脚本化し、ヴィンチェンゾ・ナタリが監督した非常に内輪な感じのファンタジー・コメディ。
review

 『CUBE』は本当に名作だった。ヴィンチェンゾ・ナタリ監督は『CUBE』の続編を断って次に『カンパニー・マン』を撮り、そしてこの作品を撮った。ここまでの3作品を見て、彼はやはり天才的な監督だと私は思う。この作品は、自己中の男と引きこもりの男がありていに言えば冤罪やら社会の仕組みやらによって窮地に追い込まれ、「世の中なんてなくなってしまえー」と思うと、本当に世の中がなくなってしまうというなんともあまりに不条理な話である。
 ただそれだけならば、たいして珍しい発想ではないし、自分の気に入らないものを消すという話はたくさんある。しかし、この作品はそれらの作品とはかなり異なっている。その要因はいろいろあるが、まず全般的なことを言えば、この作品でも途中で“神”という発想が出てくるが、そのような作品の多くは、それをどこかで神と結びつけ教訓話のように物語を展開するなり落ちをするなりする。しかし、この作品はそのような安易な方向には物語を持っていかず徹底的に「何もない」ということの意味を探ろうとするのだ。
 そして、その徹底的に何もない状態を表現する映像がまたすごい。『CUBE』もたった一つの“キューブ”で無数のキューブが組み合わさった空間を表現した映像手法が本当にすごく、迫力があったが、この作品はまったく何もない空間のおもしろさを存分に披露している。基本的には白いバックで撮影しているだけだと思うのだが、パンフォーカスで撮影したり、ミニチュアを使用したりすることで何もない空間では距離感が失われるさまを見事に表現している。遠くにある家が巨人のデイブの真横にあるように見える映像などはただそれだけなのについつい笑えて来てしまう。
 そして、それがこの作品の空間の非日常性を際立たせる。地球上にいる限り限りなく平らな空間などはありえないから、実際に限りなく平らで何もない空間で遠くに見えるものがどのように見えるかということは想像するしかないし、その想像を実際に映像化することで、この世界が地球上ではないどこかであることを表現するのだ。

 そして、この非常に即物的な「何もない」空間を、哲学や心理学に結びつけるところもこの監督の非常にうまいところだ。簡単に言ってしまえば、ここで描かれる世界とは主観の世界である。いやな記憶を消したり、見たくないものを見えなくするというのは、人間の脳が常にやっていることであり、そのような主観的な心象を映像化したらどうなるか、というのがこの作品が本当にやろうとしたことなのである。そして、人間は世界を主観によってしかとらえることができないのだから、われわれにとっての世界とは瞬間的にはこの作品のような世界なのである。
 これはある意味では哲学の科学化名なのではないか。哲学的な“主観”という概念を瞬間で切り取って、映像化する。それがナタリ監督がこの作品でしようとしたことではないのか。そのように思ったのは、作品の中でアンドリューが「哲学の科学」なる本を読んでいたからでもある。“Science of Philosophy”というなんだかわけのわからないこの本の題には哲学と科学へのこだわりと、それへの皮肉の両方が含まれているように思える。
 そのように哲学などを持ち出すにもかかわらず、彼の作品はちっとも辛気臭くならず、むしろ痛快だ。観ている間は痛快に楽しめて、何か考えさせられる。『CUBE』と比べてしまうと確かに単調ではあるが、様々な仕掛けとほのめかしを吟味して行けば決して飽きることはないと思う。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: カナダ

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