3つの小さな物語
2007/5/28
Historias Minimas
2002年,アルゼンチン=スペイン,92分
- 監督
- カルロス・ソリン
- 脚本
- パブロ・ソラルス
- 撮影
- ウーゴ・コラセ
- 音楽
- ニコラス・ソリン
- 出演
- ハビエル・ロンバルド
- アントニオ・ベデディクティ
- ハビエラ・ブラボ
- フリア・ソロモノフ
- ラウラ・バノーニ
パタゴニアの片田舎に住むマリアのところに友人が訪ねてきて、テレビ番組に出場できると告げ、彼女たちは町の雑貨店に電話をかけに行き、収録が近くの街サンフリアンのTV局であると知る。その雑貨店の隠居フストはセールスマンのロベルトから自分の犬をサンフリアンで見かけたと教えられ、サンフリアンに向かおうとするが…
それぞれの目的を持ってサンフリアンに向かう3人を描いたハートフル・コメディ。オーソドックスだが、独特の感じがあって面白い。
サンフリアンという街に犬を探しに行く老人、テレビの視聴者参加番組に出演するために行く若い母親、知人(おそらく恋心を寄せている相手)の子供の誕生日を祝うために行くセールスマンという3人を描いた物語なわけだが、“小さな”と題されているだけあってその一つ一つは非常に些細な物語である。
メインとなるのは犬を探す老人フストで、この物語は老人のキャラクターのよさもあって可笑しくもあるし、しんみりもする。子供のように振舞う頑固な爺さんは微笑ましく見ることができる主人公だ。そして、その爺さんが出会う人たちも彼をそのように扱う。
ここに登場する人たちは優しいにもかかわらず、押し付けがましくなく、それぞれの個人を尊重しているように見えるし、他人のために自分を犠牲にするほどお人よしでもない。最初に爺さんを乗せる生物学者も親切ではあるが、自分が間に合わないとなると爺さんをあっさりと診療所においていき、爺さんもそれを素直に受け止める。
それがなんだか気持ちがいい。みんなが自分のやりたいことをやり、それぞれが自分のできる範囲で他人を助ける。こんな田舎町だからできることではあるのだろうけれど、そのような人々のかかわり方を見ているといい気持ちになる。
セールスマンのロベルトの話は商売で立ち寄るシングルマザーに恋をしてしまうというさもありなんという話だが、この物語の中心となるケーキは非常にいいアイテムだ。彼が特別に注文したサッカーボール型のケーキは最初名前が入っておらず、別の街で名前を入れてもらおうとするのだが、そこでもひと騒動あり、さらにはその子に実際にあったことがないロベルトはその(レネという名の)子が女の子かもしれないと思ってケーキを亀に作り変えようとするのだ。そのスッタモンダの間にいろいろとおかしなことがあり、ロベルトが主張はするけれどいい人だということもわかっていく。
このロベルトの話にも、フスト爺さんの話のもそれぞれひとつずつ驚くような告白がある。それは平穏に見えるごく普通の人々の人生におけるひとつの波乱である。この作品は普通の日常を淡々と描きながら、そんなドキッとする瞬間をはさむことでそこに物語を紡ぎだす。その瞬間によってその人の人生は物語となるのである。
そして、そのような告白がどちらもまったくの他人に向けてなされるというのも示唆的だ。それは身近な人にもあまり言うことのないようなことなのだろうが、それをふとした瞬間にまったくの他人の漏らす。そこには大きな孤独を感じる。おそらくこの映画はコメディのような体裁をとりながら“孤独”を描いた作品でもあるのだろう。あまり2人と絡むことのないマリアも、収録のときにテレビカメラをじっとみつめるその眼差しに孤独を感じる。彼女の視線は家族や友人に向けられたものではなく、純粋にカメラに向けられたもののように見える。商品をもらうことよりもそのようにしてTVに出ること自体に大きな魅力を感じているであろう彼女の心にも大きな孤独が巣食っているのだろう。
カルロス・ソリンは『王様の映画』がヴェネチア映画祭で新人賞を獲得して注目された監督で、アルゼンチンの監督の中では国際的な評価が非常に高い。この作品もスペイン語圏の最も権威ある映画賞といえるゴヤ賞で最優秀スペイン語外国映画賞を受賞、サンセバスチャン映画祭で審査員特別賞を受賞している。
日本ではまったく注目されていなかったが今年ようやく『ボンボン』が公開された。とはいえ、デビューが40代と遅かったこともあって、寡作の監督でこれまでの監督作品は7本、もう1本くらい公開されればDVDが出るかなぁ…