スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師
2008/1/15
Sweeney Todd: The Damon Barber of Fleet Street
2007年,アメリカ,117分
- 監督
- ティム・バートン
- 原作
- スティーヴン・ソンドハイム
- ヒュー・ウィーラー
- 脚本
- ジョン・ローガン
- 撮影
- ダリウス・ウォルスキー
- 音楽
- スティーヴン・ソンドハイム
- 出演
- ジョニー・デップ
- ヘレナ・ボナム=カーター
- アラン・リックマン
- ティモシー・スポール
- サシャ・バロン・コーエン
19世紀のロンドン、理髪店主のベンジャミン・パーカーは判事のターピンに妻を横恋慕され、無実の罪で追放されてしまう。15年後、ロウを抜け出してロンドンへ戻ったベンジャミンはスウィーニー・トッドと名乗り、ターピンへの復讐を果たすべく準備を進める…
ブロードウェイのヒット・ミュージカルをティム・バートンが映画化したミュージカル・ホラー。
ティム・バートンとジョニー・デップといえば、『シザーハンズ』に始まり、『エド・ウッド』、『スリーピー・ホロウ』、『チャーリーとチョコレート工場』と次々と作品を送り出している盟友である。そのふたりが今度はブロードウェイミュージカルを元にミュージカル映画を作った。しかし、そこはティム・バートン、いわゆるミュージカル映画の能天気さとは無縁の、グロテスクなおどろおどろしい復讐劇だ。
作品自体は非常によくできていると思う。ほとんどモノクロに見える薄暗いロンドンの街を舞台に、復讐心に燃えるスウィーニー・トッドが次々と人を殺していく。そのスウィーニーの理髪店の階下でパイを売る食堂を出しているミセス・ラベットはそのスウィーニーに惚れていて、とことんまで彼に協力する。霧にかすみ、すすに汚れた街で暮らす人々はみな薄汚れ、その世界観を完全なものにする。
果たして19世紀のロンドンが本当にこうだったのかはわからないが、100年以上前のここと考えると、衛生観念も今とはまったく違っていただろうし、人々の生活の仕方もまったく違っていただろうから、この世界には説得力がある。この世界像の構築のうまさがティム・バートンの魅力だ。『チャーリーとチョコレート工場』ではありえないようなファンタジックな世界を見事に作り上げたが、ここではありえないようなおどろおどろしい世界を見事に作り上げている。
そう考えると、『チャーリーとチョコレート工場』とこの作品は正反対のようでよく似た作品なのかもしれない。ティム・バートンの作品がありえなさとリアリティを併せ持つのは、それが常に人間の内面を描いているからだ。誰でももっている子供の心、誰でも持っている残忍な心、それを誇張し映像化したときに表れる世界、それがティム・バートンの映画なのだろうと思う。私はそういう世界はすごく好きだ。だから、作品としてあまり面白くなかったとしても、ティム・バートンの世界にはなんとなく惹かれる。
さて、この作品はといえば、ジョニー・デップは独特のキャラクターを作り上げていて魅力的だし、ヘレナ・ボナム=カーターもちょっと気味が悪いくらいに役にはまっていて、キャストには問題が無い。映像のほうも非常にクリアでありながら、薄暗さや不気味さを見事に作り上げていて完成度は高い。ただ、物語のほうはたいした話では無い上に、ミュージカルにありがちな中盤の中だるみもあって今ひとつ乗っていけない。そもそも、ミュージカルが原作とはいえ、この映画をミュージカルにする必要があったのかどうかは疑問だ。
ミュージカルであることをやめ、普通の映画として作ったらもっと展開は面白く作ることができたと思う。ただ、そうするとこの作品の魅力であるグロテスクさが極端に出過ぎる可能性はある。この作品は人が次から次に殺されるし、その殺人のシーンをしっかりと映しているので非常にグロテスクだが、ミュージカルであることでその残酷さは多少和らいでいる。そのあたりはミュージカルにした利点かもしれない。
しかしそれでもこの作品は日本でもR15に指定された。アメリカでもR指定、イギリスなどでは18禁に指定されている。このことによって観客動員はおそらく減るだろう。しかし、それでもあえてこのような作品を作ったドリームワークスはなかなかやると思った。今の映画界はR指定を受けることを極端に恐れてメジャー作品では残虐なシーンやセックスの描写をほとんどなくすのが主流になっている。そしてそのような映画がヒットしている。私はこのようなメジャーの総ディズニー化はまったく気に入らなくて、どんどん面白い作品ができなくなっていると感じていた。そんな中で子供向け作品を強化しているドリームワークスがこのような作品も作ったというのは面白いと思った。
面白いと思うかどうかは人それぞれという感じの作品だが、なかなか他に無い作品でもあり、見る価値はあると思う。