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ベストセラー

マラノーチェ

★★★--

2008/6/7
Mala Noche
  1985年,アメリカ,78分

監督
ガス・ヴァン・サント
原作
ガス・ヴァン・サント
脚本
ガス・ヴァン・サント
ウォルト・カーティス
撮影
ジョン・キャンベル
音楽
ピーター・ダマン
カレン・キッチン
クレイトン・リンゼイ
出演
ティム・ストリーター
ダグ・クーヤティ
ナイラ・マッカーシー
レイ・モンジュ
サム・ダウニー
preview
 オレゴン州ポートランドの食料品店で働くウォルトは、ある日見かけたメキシコ人の青年ジョニーに一目惚れ、言葉は通じないが何とか口説こうとするウォルトと仲間と気ままに過ごすジョニー、ウォルトはジョニーたちと食事をすることに成功するが…
  『エレファント』のガス・ヴァン・サントの幻の長編デビュー作。主に映画祭で上映されただけで、日本でも2007年に初めて地上映された。
review

 モノクロの非常に暗い画面でテーマは不法移民と同性愛、場所はオレゴン州ポートランドの場末。この雰囲気はジム・ジャームッシュの初期作品『パーマネント・バケーション』や『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を思い出させる。このふたつの作品は1980年と84年のもの、直接の影響を受けているかどうかはわからないが、どちらもおそらく60年代後半から70年代のアメリカン・ニューシネマのネガティヴな後継者といえるだろう。
  アメリカン・ニューシネマは『俺たちに明日はない』や『真夜中のカーボーイ』のように反体制的な若者を描く作品で、無力感がそこに描かれたものが多い。80年代に入ると『ロッキー』のようにそれを反骨心に変えて夢をつかむというポジティヴな方向に変化していく一方で、ジム・ジャームッシュのようにさらなる無力感に襲われ「何もしない若者」を描くというネガティヴな方向に変化するものもあった。ガス・ヴァン・サントのこの作品はそのネガティヴな方向に変化した作品の最たるもので、貧しい白人と不法移民といういわば社会の底辺を被写体とする。
  ウォルトの働く食料品店にやってくる人々はホームレスすれすれの貧しい人ばかり、ウォルトのコートは背中が裂け、Tシャツの背中も大きく破れている。そのウォルトはジョニーに15ドルで寝てくれと頼む。テーマは重いのだがそれを感じさせない。厳しい状況にあるはずの不法移民の若者たちは働くわけでもなく、ただただふざけあっているだけ、ウォルトも自分の貧しさを国するよりはもっと貧しいメキシコ人たちのことを気にかける。
  しかし、やはり彼らに未来は見えない。彼らが求めているのはあくまでも刹那的な楽しさであって、そこにあるのは希望ではなく諦めだ。希望も絶望もないただの日常、しかし不法移民であるメキシコ人たちには社会は厳しい。しかし、その厳しい社会の仕打ちも怒りや抵抗を生むわけではない。
  それは徹底的な無感動である。

 短いインサートショットや新聞越しのショットなど、はっとするような新鮮なショットもある。新鮮な映像は興味を惹くけれど、その映像が語る中身は空虚である。空虚を語るということも凄いことだとは思うけれど、あまりになにもないというのも厳しい。
  映像も語り口も独特で、才能を感じさせはするけれど、この時点では心に残る作品とはなりえていない。ガス・ヴァン・サントはこの後、『ドラッグストア・カウボーイ』や『マイ・プライベート・アイダホ』を、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』をヒットさせ、『エレファント』では監督賞を取った。これを見ると順調にキャリアを重ねているように見えるけれど、このデビュー作で見せた虚無感や斬新さは影を潜めてしまっているようにも見える。彼がキャリアの中で巧妙な語り口を身に着けてきたけれど、どこか物足りないものがあり、その物足りないものがこの作品にはあるような気がする。無感動という形で表れた社会との違和感がうまく表現されれば名作が生まれるかもしれない。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ60~80年代

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