星ノくん・夢ノくん
2008/7/13
2000年,日本,68分
- 監督
- 荻上直子
- 脚本
- 荻上直子
- 撮影
- 高橋暢
- 出演
- 山口哲也
- 星島耕介
- 塩沢えみな
- 谷田文郎
修学旅行で地球にやってきた星ノくんと夢ノくんは帰りの列車に乗り遅れ、地球に取り残されてしまう。地球で生きるために必要な酸素2倍ガムも残りわずか、旅行のしおりで恐竜公園に行けばいいことを知ったふたりは、若い女性に声をかけるが、その女性は男に振られたばかりで、ふたりにカレを殴ってくれるよう頼む…
『かもめ食堂』の荻上直子がPFF(ぴあフィルムフェスティバル)で音楽賞と観客賞と受賞した作品。劇場公開はされなかったが、DVD化された。
『かもめ食堂』『めがね』の荻上直子のPFF受賞作ということで見たわけだが、いい意味でも悪い意味でも期待通りという印象だった。自主制作のデジタルビデオによる作品だけあって映像は商業用の映画の質には遠く及ばず、出演者も素人っぽさが抜けない。作品のつくりもアイデアが先行してしまって、そのアイデアを映画として構成しきれていない。要するに“未熟な”作品である。
しかし同時にそのアイデアの面白さや、人間の描写の仕方、画面の作り方に魅力を感じもする。
前半はどうみても言葉遣いの丁寧な地球人でしかないふたりの若者が宇宙人という設定に相当無理があり、平行して語られる振られた女のエピソードというのもいかにも伏線じみていて、そのわりに物語の進みが遅くじれったい。出会ったばかりだし異星人同士の3人の関係はギクシャクしている。ここは単純化して短くまとめてしまったほうがよかったような気がするのだが、アクションシーンを静止画で凝ったつくりにしたりして冗長になってしまった感じがあった。
しかし、この主人公の女性を演じた塩沢えみなは玄人はだしの演技を見せてなかなかいい。プロの役者ではないわけだが、演技に無理がなく自然に見える。しかも個性的でもある。その個性的だけれど自然な演技を見せる人というのがこの監督の作品には重要な気がするので、彼女を主演に据えたというのは彼女のキャスティングの感性なのだろう。
この演技のおかげで前半は救われて、後半にかかってくるにつれて面白くなっていく。前半と後半の最大の違いは、後半はゴールに向けて3人が一体となって進んでいるという点だ。まとまりのなかった3人が目的地に向けてとにかく進む、その間に小ネタがはさまれたりおかしな男が現れて笑いもあり、最終的にはほんわかとしながらメッセージのようなものを発信してうまくまとまる。
映像のほうもデジタルビデオなので決してクリアではないが、考えられた構図で撮られていて気持ちがよく、前半の冗長さと反対にこちらはワンカットをもう少し長くしてもよかったんじゃないかと感じさせる。物語を進行させるシーン以外の部分で魅せるというのは映画が魅力を持つ大きな要因のひとつである。この映画の後半部分にはそんなシーンがあり、映画作家としての感覚のよさを感じさせる。
60分あまりの作品で、まあプロっぽくはないが、荻上直子の作品を面白いと思ったなら見ても損はない。『かもめ食堂』や『めがね』の世界とはちょっと違う彼女の横顔が見られる。