いいかげん馬鹿
2008/8/24
1964年,日本,85分
- 監督
- 山田洋次
- 脚本
- 山田洋次
- 熊谷勲
- 大嶺俊順
- 撮影
- 高羽哲夫
- 音楽
- 池田正義
- 出演
- ハナ肇
- 岩下志麻
- 犬塚弘
- 花沢徳衛
- 松村達雄
- 殿山泰司
瀬戸内海に浮かぶ春ヶ島、戦中この島の親戚のうちにやってきた弓子は捨て子だった安吉と仲良くなる。ある日、安吉は弓子を近くの島へと連れて行くが、船が流されて騒動となる。その夜、安吉は舟で島を出て消息不明となるが、それから十数年後、ジャズバンドの一員として安吉が島に帰ってくる…
山田洋次とハナ肇による“馬鹿”シリーズの第2弾。他愛もない話だが、安吉の憎めないキャラクターがやはりいい。
これはシリーズといっても続き物ではなく、ハナ肇が同じような主人公を演じて設定は異なっているという一話完結もの。前作の主人公は安五郎で、お寺のご新造さん(若い奥さん)を敬愛するという設定だったが、今回は主人公の安吉が同じ島に住む両家のお嬢さんにあこがれるという設定。舞台は田舎の小さな村だし、ハナ肇が演じる主人公は、乱暴ものだけれど、純粋でお人よしでお調子者というキャラクターということで、基本的な舞台設定は同じ。
だから、安五郎と安吉は、人物設定こそ違え事実上同じ人物と考えていいと思う。同じ性質を持った人間が異なる境遇に生まれ育ったとき、果たして異なる物語が生まれるのかどうか。人物も話の筋もほぼ同じでありながら、状況や周囲の人物が変わることで、もちろん異なる物語になっている。主人公のキャラクターが愛すべき人物なので、いい心持でその物語を味わうことができるというわけだ。
そでに2作目にしてある種のパターンを築いたということになるが、そのあたりはひとつのパターンで何十作も作品を作り続けることができる山田洋次監督らしいというところだろう。
ただ、前作と比べると、笑いの部分が少しへって、物語のほうも展開が少し少なくなった感じがある。前作では、物語があっちへ行ったりこっちへ行ったりという感じがあったのだが、今回は安吉の失敗と名誉挽回という繰り返しに収斂している気がする。それに、今回は岩下志麻演じる弓子の出番が少なくて、いまひとつ彼女が安吉にとって非常に重要な存在であるということがわかりにくい。安吉は始終、弓子からもらったスカーフを首に巻いているし、彼女に言われたことは必ず守るし、彼女との思い出を大事にしていることはわかるのだけれど、それはあくまでふたりの間だけのことで、周りはそれをまったく取り上げていない。
前作が「無法松の一生」をモチーフとし、この作品も前作と事実上同じ人物が主人公なのだから、事実上の恋愛映画であるべきではないかと思う。表面上は主人公が巻き起こす騒動を描いたドタバタ喜劇でいいのだけれど、その裏には常に“恋心”が潜んでいなければならない。この作品はそれが少し弱く、展開の面白みも減じてしまったように思う。
相変わらずハナ肇のキャラクターは強力で、岩下志麻も美人で芯のしっかりしたお嬢さんをうまく演じている。そこに急激な開発に対するちょっとした批判なんかも盛り込まれていて、なかなかいい作品なのだけれど、もう少し勢いのようなものが欲しかった。
このシリーズは、第3作の『馬鹿が戦車でやってくる』へと続く。題名からして破天荒なこの作品にはぜひ期待したい。