ルトガー・ハウアー/危険な愛
2009/5/29
Turks Fruit
1973年,オランダ,100分
- 監督
- ポール・ヴァーホーヴェン
- 脚本
- ジェラルド・ソエトマン
- 撮影
- ヤン・デ・ボン
- 音楽
- ロジェ・ヴァン・オテルロー
- 出演
- ルドガー・ハウアー
- モニク・ヴァン・デ・ヴェン
- トニー・ハーデマン
- ドルフ・デ・ヴリーズ
彫刻家のエリックは次から次へと女を引っ掛けては寝る日々を送っていた。その2年前、田舎からアムステルダムへと出る途中であったオルガと恋に落ち、オルガの両親の反対にもめげずにふたりは結婚、幸せな生活を送っていたが…
オランダの鬼才ポール・ヴァーホーヴェンの初期作品。ルドガー・ハウアーのデビュー作でもあり、アカデミー外国語賞にもノミネートされたカルト純愛映画。
ポール・ヴァーホーヴェンといえばカルトでグロテスクなSF映画である。特に“エログロ”な悪趣味な描写が多いのが特徴。この作品も残虐な殺害シーンにはじまり、ルドガー・ハウアーの下半身丸出しのシーンへとつづく。その後もヌードとセックスのシーンが続き、やはりヴァーホーヴェンはヴァーホーヴェンかという妙な感慨を覚える。
しかし、時間が2年前へと飛ぶとヌードとセックスは相変わらずだが、いわゆるカルト的な作品というよりはヨーロッパ的なドラマへと相貌を変える。ここで描かれているのは激しく求め合う男女の純愛であり、愛にセックスや肉体は不可欠である以上、その描写が入り込むのは至極当然のことだ。ただモニク・ヴァン・デ・ヴェン演じるオルガが開放的過ぎる気もするが、それはオランダ人の国民性とまあヴァーホーヴェンの趣味だろう。
だがこの作品は破滅的な愛情を非常にうまく描き、純情物語に昇華させていると思う。ヌーベル・バーグ的な芸術性を感じさせながら、同時にアメリカ的な大衆性も感じさせる。犯罪者ではないが、『俺たちに明日はない』や『勝手にしやがれ』に通じるものを感じるのだ。
ヴァーホーヴェンは後にハリウッドに渡り『ロボコップ』や『氷の微笑』といった作品で人気監督になるのだが、『ショーガール』でこけたあとは『スターシップ・トゥルーパーズ』でその圧倒的な残虐さで存在感を見せ、『ブラックブック』ではある種の哲学を披露した。
彼の描くグロテスクさや残虐性の背景にあるのは“他者”へのまなざしだと私は思う。この作品とはあまりかかわりがないので詳しくは書かないが、彼は常に“他者”を阻害しようとする社会に対して警句を発している。
この作品では主人公のエリックが社会から阻害される存在であり、そんな彼がどう社会と渡り合っていくかを描くことで“他者”の問題を考えさせられる。オルガの良心や社会に「ヒッピー」とレッテルを貼られる彼の生き様を同情的に描くことで、彼を阻害する社会に問いを投げかけているのだ。
彼が「エロ」に固執するのにも何か理由があるのだろうが、この作品からはちょっと読み取れなかった。それはまた考えてみようと思う。