チャップリンのニューヨークの王様
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2009/9/11
A King in New York
1957年,イギリス,105分
- 監督
- チャールズ・チャップリン
- 脚本
- チャールズ・チャップリン
- 撮影
- ジョルジュ・ぺリナール
- 音楽
- チャールズ・チャップリン
- 出演
- チャールズ・チャップリン
- ドーン・アダムス
- マイケル・チャップリン
- オリヴァー・ジョンストン
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革命のため祖国を逃れアメリカへとやってきた亡国の王様、財産を首相に持ち逃げされ、核の平和利用の青写真を売り込もうと考えるがうまく行かない。そんな中、隣室の女性にほだされてパーティーに出席すると、その様子は隠しカメラでTV中継されており…
赤狩りのアメリカを嫌ってイギリスに戻ったチャップリンが製作した社会派コメディ。
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前半ははっきり言って面白くない。チャップリン扮する王様がアメリカにやってきてNYに滞在、その騒々しさを茶化し、文化の貧困さを笑うという内容だ。王妃には紳士的に振舞い、王族らしい気品を見せるが、隣室で美しい女性が入浴中と見ると途端に鼻の下を伸ばす。このあたりは悪くないが、チャップリンの喜劇としては平均以下の出来といわざるを得ないだろう。やはり若い頃の勢いはなくなってしまっている。
終盤はひとりの子供をきっかけに赤狩りの禍に巻き込まれるという展開。ここは本当に辛らつで笑いはないが面白い。ルパート少年を演じるのは息子のマイケル、演説でまくし立てるところなんて父親譲りのタレントを感じさせたりする。
この作品から伝わってくるのはアメリカの不自由さに対する失望感だ。アメリカといえば自由の国、しかし実は自由でもなんでもない。制度的には自由だけれど、制度とは別との頃で働く抑圧が非常に大きい。だから思想の自由を掲げながら“法廷侮辱罪”で共産主義者を次々と拘束し、国外追放するなんてことがまかり通ってしまう。明確な基準がなく自由が制限されてしまうので、戦時中の日本の治安維持法のように始末が悪い。
非米活動委員会からの召喚に答えることを嫌い、アメリカを離れたチャップリンのアメリカに対する不信感がそこに表れる。『独裁者』でも『モダン・タイムス』でも見られた笑いに包んだ批判精神、それがこの作品でも発揮されている。それはチャップリンが第二の故郷に抱く愛情の表れでもあるのだろう。自分が愛した自由の国のそんな風潮を彼は悲しみ、その嵐が収まってくれるのを待つのだ。
しかし、そんなアメリカの風潮は昔のことではない。いまアメリカ人を縛っているのは宗教だろう。キリスト教原理主義が人々の思想を縛る。限られた地域のこととはいえ、国全体に影響を与えるくらいの規模ではある。信教の自由は保障されるべきだが、政教分離という思想は形骸化してしまった。
今チャップリンが生きてアメリカにいたらどんな映画を撮ったろうと想像する。きっと宗教指導者と政治家を茶化す映画を撮ったんだろうなぁ チャップリンのようにコメディで社会を風刺できる人は百年余りの映画の歴史の中でも他にはいない。そんなチャップリンの晩年の奮闘、コメディとしての質は今ひとつでもやはり見る価値はある。