たった1人のトリロジー
~クリストフ・プロフィのアルプス三台北壁単独登攀
2008/9/20
Trilogie pour un Homme Seul
1987年,フランス,53分
- 監督
- ニコラ・フィリベール
- 撮影
- ローレン・シャヴァリエ
- デニス・デュクロ
- オリヴィエ・ゲノー
- リチャール・コパン
- 音楽
- アンドレ・ジロー
- 出演
- クリストフ・プロフィ
登山家のクリストフ・プロフィがアルプスの三大北壁(グラン・ジョラス、アイガー、マッターホルン)の連続登攀に挑む。3年前に24時間での連続登攀を達成した彼は、そのときから同じことを冬に達成することを目標としてきた。いよいよ挑戦することになったが、なかなか天候が回復しない…
85年の『クリストフ』と『カマンベールの北壁』でその姿を捉えたニコラ・フィリベールが再びクリストフの姿を捉えたドキュメンタリー。
冬のアルプス3大北壁を連続して登攀するという誰も成し遂げたことがない偉業に挑戦することにしたクリストフだが、アルプスの天候はなかなか回復せず、何週間も待つだけの日々が続く。今回は彼は奥さんとともに準備期間を過ごし、ついに挑戦の日が来る。
実際の登攀のシーンは『クリストフ』と同様に淡々と進む。さらに、夜間の登攀シーンはフィルムがないので、彼のためにさまざまな手配をする奥さんのほうが時に中心になる。
ひとつ登っては移動し、ひとつ登っては移動、そして最後のマッターホルンも見事に登りきる。ひとつを登りきるごとに山頂付近で奥さんとスタッフが待ちうけ、彼をたたえ、飲み物や食料を差し出す。
いったい、彼は何のために登っているのか。山に登る理由は「そこに山があるからだ」というのは、有名な言葉だが、本当になぜ人は山に登り、困難なことに挑戦しようとするのだろうか。彼の挑戦は周囲の人々の支えなしには達成できないものだが、周囲の人々も心配しながらも彼の挑戦を心から応援している。
この困難な挑戦は自然を征服するとか、自分の力を誇示するといった目的ではなく、文字通り自分との戦いなのだと思う。困難な課題に挑戦するということは、それまでの自分を乗り越えることである。
より困難な課題を克服することで、自分が一回り大きくなったという実感を得ることができるのだろう。そして、同時に自分が周囲に支えられて初めてそのようなことを実現できると実感する。それによって人間的に成長するということこそが挑戦の意義なのだ。
この作品は山に挑戦するクリストフの視線を一切入れないことで、この挑戦が彼個人のものであることを強調する。見ているものをクリストフに一体化させるのではなく、観客をあくまでも傍観者とすることで、逆に彼の挑戦のすごさを示すのである。1人で困難な挑戦に挑みそれを成し遂げた男と、それを支えた人々。それを見て私たちは何を感じるか、それがこの作品が投げかけていることなのだ。
“クリストフ・シリーズ”リスト
『クリストフ』
『カマンベールの北壁』
『たった1人のトリロジー』
『バケのカムバク』