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ベストセラー

二十才の微熱

★★★--

2008/6/14
1993年,日本,114分

監督
橋口亮輔
脚本
橋口亮輔
撮影
戸澤潤一
音楽
篠崎耕平
磯野晃
村山竜二
出演
袴田吉彦
片岡礼子
遠藤雅
山田純世
橋口亮輔
preview
 大学生の島森はゲイバーで男相手の売春をしていた。彼はゲイというわけではなかったが、無感動にその好意を受け入れていた。そんな彼にバイト仲間の高校生信一郎とサークルの先輩である頼子が思いを寄せていたが、島森はそれも冷静に捉えていた…
  橋口亮輔監督がPFFスカラシップによって撮った劇場デビュー作。袴田吉彦や片岡礼子にとってもデビュー作でぎこちなくもあるが、みずみずしくもある。
review

 アマチュア映画作家の登竜門であるピア・フィルム・フェスティバルで89年にグランプリを取った橋口亮輔監督がその賞として与えられるスカラシップによって撮り上げたデビュー作。このPFFスカラシップ作品には、園子音の『自転車吐息』、矢口史靖の『裸足のピクニック』、熊切和嘉の『空の穴』、荻上直子の『バーバー吉野』、内田けんじの『運命じゃない人』などなど秀逸な作品が数多くある。
  なかにはデビュー作とは思えない完成度の作品もあるが、橋口亮輔のこの『二十才の微熱』は出演者もデビュー作ということもあってかデビュー作らしいみずみずしさと危なっかしさがある。
  この作品で監督が描こうとしたことははっきりとしている。それは、男が好きでもないのに男相手に体を売る主人公の島森の無感動さである。何に対してもいやとは言わず、誰に対しても優しく、しかし心を開かない。彼の行動からは何も見えてこない。いったい何を求めているのか、あるいは何を待っているのか、それはまったく見えてこない。彼はただ周りを見回し、周りの人たちが彼に求めていることをやろうとする。そこには喜びも怒りも何もない。ただ無感動に過ぎ行く日々、それが相手を傷つける。
  このキャラクターは『渚のシンドバッド』の吉田に受け継がれる。島森はただ無感動なだけだが、吉田にはそこに思い込みとも言える価値観が加わる。その思い込みがさらに相手を気づける度合いを増すわけで、ある意味ではキャラクターとして洗練されていく。
  『渚のシンドバッド』とこの『二十才の微熱』は連続もののように似通っている。描かれている題材は違っているが、未成熟な若者の心を描き、それが無自覚に周囲を傷つけていくさまを描く。これは高校生ですでにゲイである自分を自覚し、周りに比べると成熟してしまった橋口亮輔が見つめた若者の姿なのだろう。彼自身、そんな無自覚な男たちに傷つけられたのかもしれない。
  このような若者は、時代を超えて存在するし、あるいはこれは少年から青年へと成長する若者が常にぶつかる壁なのかもしれない。その壁を意識しないまま大人になってしまった少年がいまさまざまな事件を起こしてしまっているのかもしれないなどとも思う。
  しかし、まあこの作品自体は社会的な視座に立ったというよりは、身近なことを見つめた映画だ。誰もが通る青年という時期をひとつの視点から見る、そこから浮かび上がってくる今というものがあるのだ。

 片岡礼子がとてもいい。前半は地味な存在なのだが、ひそかに想いを寄せるというキャラクター設定をリアルに演じているし、少し男っぽい(おやじっぽい?)性格もしっかりと出ている。
  終盤、島森が家にやってくるシーンではとにかく喋りまくる母親をうるさがりながらも、島森がやってきたことがうれしいという感じをうまく演じているし、母親とのやり取りのスピード感もすごい。
  橋口監督は『ハッシュ!』で再びこの片岡礼子を使うわけだが、ここでも非常にいい存在感を示していた。
  橋口亮輔監督の作品では女性は常に現実的で、男性はどこか浮世離れしているところがある。まあ現実にもそういう面はあると思うが、この監督の作品では常にそれが顕著だ。この『二十才の微熱』と『ハッシュ!』の片岡礼子、『渚のシンドバッド』の浜崎あゆみ。
  橋口亮輔は(ゲイだからということもあると思うが)その現実的な女性よりも男性のほうに思い入れがあるように思える。普通に見ると現実的な女性たちのほうが魅力的なキャラクターだと思うのだが、監督は浮世離れした男性のほうに執着する。この作品では終盤に自ら客として登場し、嫌なやつの役を演じる。この監督自身の熱演は若者たちの未来を暗示し、さらに先へと物語をつなげていく。

 橋口亮輔監督はデビューから15年間でわずか4本の作品しか撮っていないが、一本ずつ確実にレベルアップして行っている。この『二十才の微熱』は一本の作品としてはまあまあというレベルではあるが、彼がすばらしい監督になっていく第一歩らしい作品でもある。
役者のいい演技を引き出し、自分なりのメッセージをこめ、それを観客の問題意識や、われわれを取り巻く社会とつなげる。
  他の作品を見てからデビュー作に立ち返ると、彼のそんな変わらぬ姿勢が見えてくるのだ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 日本90年代以降

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