Still Life
1975年,イラン,89分
監督:ソフラブ・シャヒド=サレス
脚本:ソフラブ・シャヒド=サレス
撮影:フシャング・バハルル
出演:サーラ・ヤズダニ、ハビブ・サファリアン
イランの片田舎の踏み切り。踏み切りの上げ下げをする一人の老人。老人は家で絨毯を織る妻と二人、ひっそりと暮らしていた。しかし、ある日3人の男が現れ、老人に年と勤続年数を聞いて帰っていった。そして、そのしばらく後、老人のところに退職勧告の手紙が舞い込む。
モフセン・マフマルバフが「ワンス・アポン・ア・タイム・シネマ」(日本未公開)の中でこの映画のシーンを引用しオマージュをささげた、イラン映画史上に残る名作。本当に静かな老人たちの生活を淡々と描くが、しかし非常に味わい深い。
列車、踏み切り、家、食事。毎日のすべての出来事が同じことの繰り返しである日常。パンを運んでくる列車。見ていると、老人の一日の生活パターンがあっという間にわかる。タバコの吸い方、紅茶の飲み方、ランプを持っていく時間… まず、それを説明せずにわからせてしまうところがすごい。一切説明はなく、セリフも必要最小限。しかし、見ている側は、老人が踏み切りの開け閉めをして、その合間に小屋で居眠りし、夕方にはパンを受け取って、それを家に戻って入れ物に入れ、紅茶を飲み、紙巻タバコをパイプで吸い、ランプに火をつけ、それをもってまた踏み切りのところに行き、帰って夕飯を食べる。そんな生活をまるまるわかってしまう。
しかも、この監督がすごいと思うのは、このまったく同じことの繰り返しをまったく同じには撮らず、少しずつ違う形で撮っていく。踏み切りの開け閉めをしているところでも、微妙にカメラの位置が違っていて、老人の大きさや通り過ぎる列車の見え方が違う。パンを受け取るところでも、最初は老人が列車に隠れる形で撮って、受け取る瞬間は写さないが、次の時には逆からとってそのものを映してみたりする。そうやっていろいろな角度から同じ行動を見ていると、それがちょっと変わったときに思わず気づいてしまう。わかりやすいのは、退職通知を受け取って老人が家に戻ったとき、パンを持ったまま椅子に座る。見ている人は「いつもはあそこに…」とつい思ってしまう。
それが本当にゆっくりとしたテンポで展開され、あまりに心地よく、ついつい寝入ってしまいそうな、「あー、でもここで眠ったらもったいないよ、こんないい映画なのにー」という葛藤がこの映画の質を表しているのではないでしょうか。
最近思うのは、寝られる映画ってすごいということ。それだけ見ている側を心地よくさせるということですから。これもそんな映画です。しかし、寝てしまって見逃すのはもったいない。あーーーー
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