ゲット スマート

スパイ映画とコメディをバランスよく、そんなに笑えないけど面白い。

Get Smart
2008年,アメリカ,110分
監督:ピーター・シーガル
脚本:トム・J・アッスル、マット・エンバー
撮影:ディーン・セムラー
音楽:トレヴァー・ラビン
出演:スティーヴ・カレル、アン・ハサウェイ、アラン・アーキン、ドウェイン・ジョンソン、テレンス・スタンプ、マシ・オカ、ネイト・トレンス、ビル・マーレイ

 アメリカの秘密諜報組織“コントロール”に所属する分析官のマックスはエージェントへの昇格を目指すが、分析官として優秀なゆえにかなわなかった。そんな折、コントロール本部の爆破事件が発生、エージェントたちの情報が漏れてしまったため、マックスが急遽エージェント86として整形したばかりのエージェント99とともに任務に就くことに…
 1960年代のTVシリーズ「それいけスマート」を現代風にリメイク。オリジナルの脚本に参加しているメル・ブルックスが監修としてクレジットされている。

 おバカなスパイがドタバタを展開しながらも活躍するというアクション・コメディなわけだが、コードネームが“エージェント86”ということからもわかるように基本的には“007”のパロディからスタートしている。“007”と同じようにさまざまな秘密兵器が登場するのだが、その趣向を凝らした秘密兵器が面白い。

 話のほうも主人公のマックスがロシアに潜入、ドタバタを繰り広げながらも成果を挙げどんどん展開していく。その二転三転する展開はありきたりといえばありきたりだが、スパイ映画として及第点のプロットというところだろう。

 ただ、笑いをちりばめることによってその話のほうにあまり注意が向かなくなるということもある。まあ話だけに集中して見られるほど練られたプロットではないので、散漫になるくらいでいいのかもしれない。つまり、笑いとプロットに注意が分散することで1本の映画として成立している、そんな映画だということだ。これをどちらにしても中途半端と取るか、いいバランスの取り方だと見るかは観る人次第。私はこれはありだと思うが、日本人にはあまり好まれるタイプの映画ではないと思う。

 オリジナルがメル・ブルックスで、監修でクレジットもされているわけだが、このメル・ブルックスが日本では好みの別れるところだ。私もそれほど好きではないが、好きな人にはたまらないのではないだろうか。主演がスティーヴ・カレルというところもメル・ブルックス的な者を感じるし、ビル・マーレイが登場したシーンなんかはその系統の笑いの真骨頂を感じた。

 それでもやはりバカバカしさも欲しいということで、バカバカしい部分の担当におちこぼれのエージェントと開発担当のオタク2人を配した。マシ・オカとネイト・トレンスが演じたオタク2人のほうはスピンオフ作品『ブルース&ロイドの ボクらもゲットスマート』の主役となって活躍したくらいだから、好評だったのだろう。

 ヒットを受けてシリーズ化の計画も進行中だとか。

誘拐騒動/ニャンタッチャブル

That Darn Cat
1996年,アメリカ,90分
監督:ボブ・スピアーズ
脚本:S・M・アレクサンダー、L・A・カラゼウスキー
撮影:ジャージー・ジーリンスキー
音楽:リチャード・ギブス
出演:クリスティナ・リッチ、ダグ・E・ダグ、ジョージ・ズンサ、ピーター・ボイル

 田舎町で暮らす少女パティは、あまりに平和で何もおこらない田舎町がきらいで、都会に行くことばかり考えて、友達といえば猫のBJだけ。母親はそんなパティに説教ばかりするが、パティは聞く耳を持たない。そんなある日、BJが腕時計を首につけて帰って来た。パティはそれが新聞に載っている誘拐された家政婦のものだと騒ぎ出して…
 65年のディズニー映画『シャムネコFBI/ニャンタッチャブル』のリメイク。動物と子どもを使ったいかにもディズニーらしい穏やかなコメディ。

 いちおう猫中心に回っているようですが、よく考えると別に猫が活躍しているわけではなく、猫に振り回されるFBIという面白さを追求しているだけ。しかも笑いのネタになっているのは事件にかかわらないことばかり。誘拐事件を扱っているにもかかわらず、あまりいさかいが起きないというのも不思議。 などなどいかにもディズニーという展開は子どもが見ていても安心ということはありますが、やはりコメディなんてものはばかばかしかったり、お下劣だったり、したほうが面白いわけです。
 要するに、特に面白くないということがいいたいわけですが、そもそもサスペンスでもあるはずなのに、犯人が誰かという謎解きの部分は全くない。面白いところといえば、パティとジークの夫婦漫才のようなところ。ジークはなかなか面白いですが、『クール・ランニング』のひとだそうです。
 やはり、ディズニーのコメディはなかなかヒットしないと確認したしだいでした。

チャーリーズ・エンジェル

Charlie’s Angels
2000年,アメリカ,98分
監督:マックG
脚本:ジョン・オーガスト、ライアン・ロウ
撮影:ラッセル・カーペンター
音楽:エド・シェアマー
出演:キャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リュー、ビル・マーレイ

 とある飛行機のファーストクラス。アフリカ系の大男が挙動不審の男の隣に座る。合言葉というと、その男は胸に抱えた爆弾を見せた。アフリカ系の大男は爆発直前に爆弾を持った男を抱え、飛行機の扉を開けて外に飛び出した。空中で爆弾は爆発した。
 謎の男チャーリーに雇われ難事件を解決するナタリー、ディラン、アレックスの美女3人組。その名はチャーリーズ・エンジェル。
 70年代に人気を博したTVシリーズのリメイク版。ドリュー・バリモアが製作権を買い、自らキャストを集めたという入魂の作品。

 この映画をどう見るかといえば、笑うしかない。アクション映画だと思って真面目に見てしまうと、確実にどうしようもない映画になってしまう。いかに早くそのことに気付くのかが勝負。
 といっても、冒頭の飛行機のドアを開けて外に飛び出す時点でそのことにはすっかり気付くわけで、そこから先は全く持って破天荒な滅茶苦茶な、アクションによる笑いを楽しめばいい。それはもちろん、わかりやすいワイヤー・アクションでみんなが空を飛び(今のアメリカ人は空くらい飛べたないと映画には出れないらしい)、爆風に跳ね飛ばされ、ドアや壁にぶち当たる。それでも怪我ひとつしない。
 この映画でむしろ邪魔なのは、逆として存在するギャグの部分。パーティーでの相撲レスラーとか(後ろにいたのがどう見てもトンガ人なのは面白かったけど)ビル・マーレイのコメディアンらしい動きとか。そんなことをしなくてもこの映画は笑える。
 とはいえ、この映画は基本的にはアクション映画のようで、作る側もそのように作っているらしい。いわゆる「マトリックス後」のハリウッド・アクションの典型的な例で、ワイヤーアクションと映像加工を駆使して、ありえないことをさまざまやってしまう。一番面白かったのは、レーシングカー同士が橋の上でチキンレースをするところ。ありえなさもここまで行き着くとものすごい。大爆笑してしまいました。「マトリックス後」のアクションの過剰さ。その過剰さを笑いに持っていくのも一つの方法。作る側は狙っていないかもしれないけれど、できた映画を見れば、見事に笑えるところに落としている。あるいはわたしのツボに落としている。
 おそらく、この映画を批判する人はたくさんいるでしょう。アクションがつたない。ストーリーが荒唐無稽。話の辻褄が合わない。リアリティがなさ過ぎる。いろんな映画の真似に過ぎない。何で肝心のときに銃をつかわねーんだ。アジトのわりに警備が薄すぎるぞ。
 まあ、どれも当たっているんですが、それでもあえて、この映画を笑うことのできる余裕のある大人、そして心の広い映画ファンでありたい。皆さんにもそうあって欲しい。そのような願いを込めております。だって、ドアは全部蹴って開けるんだよ。

修羅雪姫

2001年,日本,92分
監督:佐藤信介
原作:小池一夫、上村一夫
脚本:佐藤信介、国井桂
撮影:河津太郎
音楽:川井憲次
出演:釈由美子、伊藤英明、嶋田久作、佐野史郎

 500年もの間、鎖国を続けるとある国に、隣国の帝政の崩壊で元近衛兵たちが流れてきた。彼らは建御雷(たてみかずき)と呼ばれる一族で、だれかれかわまず殺す暗殺集団となっていた。その中のひとり雪は逃亡者を追い、殺しに行ったところで元建御雷の男空暇に母親を殺したのが現在の首領白雷であることを告げられる…
 1970年代に梶芽衣子主演で映画化されたコミックの映画化。映画のリメイクではなく、原作が同じというだけ。香港のアクション俳優ドニー・イエンがアクション監督を務め、アクションは本格派。

 話がくどい。物語の背景説明をくどくどと、しかもモノローグで語る。それを語る(場面上の)必然性もないし、物語の上でその背景説明が絶対的に必要であるとも思えない。だから、この背景説明は無駄なもので、特に隆の両親が殺されたとかそんなことはどうでもよく、建御家がどうして暗殺者集団になったのかというのも別にどうでもよいことのような気がする。もっと雪の物語に全体を絞って、話を凝縮すれば面白くなったのにと思ってしまう。くどくどした説明がはさまれることで、そこで映画のペースが落ち、アクションシーンにあるスピード感が損なわれてしまう気がする。
 なので、どうしても映画に入り込めない感はありましたが、アクションシーンはなかなかのもの。アクション監督はドニー・イエンで、香港アクション流行のワイヤーバリバリ、いたるところでワイヤーです。これだけ徹底して使われると気持ちのいいものかもしれない。日本映画のアクションシーンとしてはかなりいいものなのではないかと思います。
 そして、意外といいのが釈由美子。アクションシーンにはたどたどしさが見えるものの、ワイヤーのおかげで何とかこなしているし、演技も意外とうまかったりする。無表情さと、感情が表れる顔と、そして終盤のなんともいえない顔と。けっしてうまくはないけれど、何かが伝わってくる感じ。日本アカデミー賞の主演女優賞くらいあげてもいい気がしました。
 しかし、この映画は細部をおざなりにしすぎ。車の汚しは雑だし、血の飛び方や吐き方などもそうとうに安っぽい。(特に必要であるとも思えない)変な特急電車や街並みのCGに金をかけるより、そういった細部をリアルにしていくことにお金をかけてほしいと思いますね。いくらアクションに迫力があっても、流れる血がどう見てもにせものでは面白さも半減です。雪が手の甲をぐさりと刺され、どう考えても骨も神経もばっさり切れているのに、あんなにすぐに回復してしまうのもどうかと思う。
 そういった詰めの甘さが日本の娯楽大作にたびたび見られ、だから巨額を投じた作品はたいていこける。地味な部分にお金をかけるその心の余裕かマニアなこだわりがいい作品を生むのではないかと思ったりします。

PLANET OF THE APES/猿の惑星

Planet of the Apes
2001年,アメリカ,119分
監督:ティム・バートン
原作:ピエール・ブール
脚本:ウィリアムズ・ブロイルズ・Jr、ローレンス・コナー、マーク・ローゼンタール
撮影:フィリップ・ルースロ
音楽:ダニー・エルフマン
出演:マーク・ウォールバーグ、ティム・ロス、ヘレナ・ボナム・カーター、マイケル・クラーク・ダンカン

 2029年、スペースステーション・オベロン号はチンパンジーを宇宙飛行士として教育し、宇宙探査を行っていた。壮絶な磁気嵐に遭遇したオベロン号はチンパンジーのペリクリーズを探査船で送り込むがペリクリーズは消息を絶ってしまったそれを見た宇宙飛行士のレオは独断でポッドを発進させ、ぺリグリーズを追った。
 1968年の名作SFをティム・バートンがリイマージュした意欲作。前作とはまったく異なる物語展開を見せ、ILMの技術を駆使した猿もすごい。

 一言で言えば期待通りのティム・バートン・ワールド。とにかく面白ければいいんだという監督の姿勢がとてもいい。そのためには原作のストーリーなんて曲げてしまえばいいし、使える技術は使えばいい。それだけばさっと割り切った作品なので、前作のような明確なメッセージがないのがむしろいい。
 猿のリアルさは相当なものだけれど、やはり不自然さは否めない。ティム・ロスはまったくもってすごいけれど、ヘレナ・ボナム・カーターの顔は今ひとつ。全般的にいってメスの猿の造作があと一歩というところ。ゴリラ系の猿たちはかなりいい。
 ネタばれは避けなくてはならない映画なので、短めにとめておきます。とりあえず娯楽映画としてはよいと思います。