1968年,日本,84分
監督:増村保造
原作:三浦綾子
脚本:池田一朗、増村保造
撮影:小林節雄
音楽:山内正
出演:若尾文子、緒方拳、松尾嘉代、梓英子、内田喜郎

 北海道の富豪佐々林家の長男一郎は姉であると思っていた奈美恵と父豪一との情事を偶然覗き見て奈美恵が実は父の妾であったことを知る。一郎は父への反発心から家で食事することを止め、学校の近くのパン屋で毎日パンを買ううちに一人でそのパン屋を切り盛りする久代にあこがれるようになっていく。
 思春期の少年が大人の世界を垣間見たことから起きる煩悶を描いた。増村いわく「少年のヰタ・セクスアリス」。

 まず少年が主人公というのが見慣れない。そしてその少年のあまりのかたくなさにいらだつことしきり。いくら若尾文子と緒方拳が爽やかでも、少年が放つ停滞感を薄めることは出来ず、全体のトーンはかなり重い。しかし、その最大の要因であるはずの奈美恵のキャラクターが非常に増村的で逆にちょっと安心してしまう。普通の増村だったら奈美恵を主人公にして描くところを今回は逆の視点で描いてみたというところだろうか。
 ということで、全体的には少しバランスが悪いかなという感じがしなくもない。緒方拳も「セックスチェック」の強烈なキャラクターと比べるとなんだか弱い感じがしてしまうし、若尾文子も地味な人。
 そんな中、光っていたのは奈美恵を演じる松尾嘉代とみどりを演じる梓英子。その二人の火花散る戦いの物語にしてしまったらもっと増村的でもっと面白い映画になったんじゃないかと思ってしまうのは、私だけだろうか?

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