Enter The Dragon
1973年,香港=アメリカ,103分
監督:ロバート・クローズ
脚本:マイケル・オーリン
撮影:ギルバート・ハッブス
音楽:ラロ・シフリン
出演:ブルース・リー、ジョン・サクソン、ジム・ケリー、シー・キエン

 少林寺でも随一の実力を持つリーは師から少林寺の精神を裏切ったハンの話を聞かされ、アメリカの役人からハンの島への潜入操作を依頼される。さらに、自分の妹が命を落とした真実を聞かされ、ハンの島で開かれる武芸トーナメントに参加することに決めた。
 香港で名声を極めたブルース・リーがアメリカンメジャー初の香港ロケ映画に主演。しかし、公開直前に謎の死を遂げてしまった。映画はブルース・リーの死後、約3分間がカットされて公開。現在はその3分間を入れなおしたディレクターズ・カット版が発売されている。

 ブルース・リーがいなければどうしょうもない映画になっていたでしょう。話の筋もよくわからないし、プロットに必然性があまりにもないわけです。ハンが謎の人物ということですべての不合理が片付けられる。鏡の部屋がなぜあるのかは見当もつかない。そんな映画なわけですが、そのすべてをブルースリーのアクションと、筋肉と、目と、眉間の皺で補って余りある。なんといっても、倒れた相手の内臓に蹴り込むシーンの顔のアップ。うーん、こんなに切なく人を殺せる人は映画史上他にいません。
 監督としては(あるいはブルース・リーが)いろいろなメッセージをこめようとして、おそらく監督のほうは、ウィリアムスとローパーにヴェトナム帰りという背景を持たせ、ウィリアムスと警官のいざこざや、その語りでメッセージをこめようとしているのだけれど、それはあけすけ過ぎて今ひとつ伝わってこない。それよりもブルース・リーが自らの体(たとえばやはりあの顔)で語る哲学のようなもののほうが観客の心に伝わってくるわけです。
 だから、どう振り返ってみてもこれはブルース・リーの映画で、パラマウントのブルース・リーをアメリカ映画に取り込もうという作戦は失敗している。確かにブルース・リーは英語をしゃべっているけれど、それは香港を体現するものでしかなく、アメリカ映画にはならない。むしろアメリカ人たちはお客様で香港人による香港の物語となってしまう。
 つまり、ブルース・リーはかっこいい、他に並ぶもののないアクターだということ。この映画はそれが香港だけではなくて、ハリウッドにも通じるのだということを証明しているのだと思います。ブルース・リーの映画で他に面白いものもありますが、ブルース・リーを評価する上ではこの事実を逃すわけには行かないということでしょう。
 余談を2つ。娘のシャノン・リーは1998年に『エンター・ザ・イーグル』という作品に主演しています。しかし邦題は『燃えよイーグル』ではなくて、原題のまま。『燃えよイーグル』にしたらヒットしたかもしれないのに。
 あとは、最初にブルース・リーと組み手をしているのはどう見てもサモ・ハン・キン・ポー。ちょっとやせていますが、やはり身軽でバック転を軽々としているので確かでしょう。

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