Thirteen Days
2000年,アメリカ,145分
監督:ロジャー・ドナルドソン
原作:アーネスト・R・メイ
脚本:デヴィッド・セルフ
撮影:ロジャー・ディーキンス
音楽:トレヴァー・ジョーンズ
出演:ケビン・コスナー、ブルース・グリーンウッド、スティーヴ・カルプ、ディラン・ベイカー、ルシンダ・ジェニー
1962年10月、アメリカの偵察機U2がキューバ上空から撮影した写真にソ連の核兵器らしい影が写っていた。キューバに核兵器が配備されれば、アメリカはその射程内に入ってしまう。大統領補佐官のケニー・オドネルは大統領ジョン・F・ケネディ、司法長官ロバート・ケネディとともに戦争の危機を回避する方法を考え出そうとするが、軍部は戦争は不可避と考え即時爆撃を要求していた…
最も全面核戦争に近づいた瞬間として知られる1962年のキューバ危機を題材にしたリアル・サスペンス。わずか40年前の史実を映画にするという難しいことをうまく裁いた印象がある。サスペンスとしてももちろん面白いが、現在のアメリカの姿と比較してみると、またいろいろ考えさせられるところもある。
結果がわかっているサスペンスが面白くないのは仕方のないことなので、キューバ危機について細部まで知っている人にとってはサスペンスとしては面白くもなんともないでしょう。しかし、キューバ危機についてまったく知らない、あるいは一応知ってはいるけれど細かくは知らないという人にとってはサスペンスとしても楽しめるし、歴史としてみることもできる。歴史としてはアメリカ側からの視点しかないという留保つきではありますが。
ということなので、2時間半という長さでも飽きることはなく見ることができる。物語展開としてはわかりやすいヒーロー物というか、プロデューサでもあるケヴィン・コスナーが必要以上にヒーローとして出てきてしまっているという印象はあるが、ちょっと腹が出て生え際も後退し、2枚目然としたところは薄れたのでこれは良しとしましょう。
ということで、映画としては面白いということでいいのですが、他にも書くべきことがあります。ひとつは視点の偏り、ひとつは現在のアメリカとの対比ですね。
視点の偏りというのはもちろん、一方的なアメリカの側からの視点のみで書かれているということ。フルシチョフも登場しないし、もちろんカストロも登場しない。大使やら国連大使やらは登場するけれど、それは常にアメリカが倒すべき敵、疑わしい嘘つきとして登場する。アメリカ(の3人)はいい人で他は悪い人、そんな主張が明確に現れる。
これがあまりにばかげていると思うのは、たとえば少ししか出てこなかった米州機構との関係、この映画では米州機構の支援を意図も簡単に、自主的に取ったように描いている。しかし実際のところ、米州機構というのはアメリカがアメリカ大陸を掌握し、事実上の植民化を図る機関であって、彼らがアメリカを支援するのはその代表がアメリカが支援している親米政権だからだ。そしてその親米政権というのはアメリカが武器援助なども含めた支援によってテロリストも含めた反体制勢力を政権に立てたものに他ならない。
ソ連によるキューバへのミサイル配備というのは、そのような米州機構の中でキューバが孤立していたという背景があるということも考える必要がある。つまり、キューバへのミサイル配備というのが必ずしもアメリカへの先制攻撃のためだと決め付けられるわけではないということだ。
もうひとつ、現在のアメリカとの対比というのはもちろんイラク攻撃のことで、軍部も大統領も挙国一致で戦争へ突入しようとするアメリカと比べると、このころのアメリカはまだ良心が残っていたという印象を持つということ。やられたらやり返すという報復の精神や、自国と同盟国の人々以外の命はなんとも思っていない点では変わっていないが、あいまいな理由で戦争には持ち込まないという理念は合ったような気がする。
それが今の、何でいいから空爆したいというブッシュ政権とは違う。この映画はもちろん9・11以前に撮られた映画で、だからこそこのような映画ができたのだろう。アメリカにおいて民衆の扇動装置としても働くハリウッドは9.11以降は現政権に疑問を投げかけるようなものは引っ込めて、毒にも薬にもならない映画ばかりを送り出す。
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