小津安二郎 初期短編1

1929年,日本,25分

突貫小僧
監督:小津安二郎
原案:野津忠治
脚本:池田忠夫
撮影:野村昊
出演:斎藤達雄、突貫小僧(青木富夫)、坂本武

大学は出たけれど
監督:小津安二郎
原作:清水宏
脚色:荒牧芳郎
撮影:茂原英
出演:高田稔、田中絹代、鈴木歌子

突貫小僧
 人攫いの出そうな天気のいい日の街角、一人の子供が遊んでいる。そこにあらわれたひげを生やした怪しい男、男は予想通り人攫いで…

大学は出たけれど
 大学をて就職面接に行く男、しかしそこで言われた仕事は受付だった。大学をてそんな仕事は出来ないといって会社を出てきてしまったが、郷里から出てきた母に就職が決まったと嘘をついてしまって…

 短編ということでサイレントでも気軽に見れるし、コメディタッチで面白い。小津のよさも堪能できる。サイレント&小津初心者にお勧め。

 「突貫小僧」は10年程前に発見されたフィルム、「大学は出たけれど」は本来長編であったものの残存する一部分を短編として復元したもの、というともに貴重なフィルムだが、その映像は素朴で、しかししっかりと小津らしいもの。
 「突貫小僧」の主人公突貫小僧こと青木富夫は1929年の「会社員生活」でデビューした子役。といっても、撮影所に遊びに来ていたのを小津監督が見つけ、面白い顔だから映画に出そうといったのがきっかけらしい。突貫小僧は「生まれてはみたけれど」をはじめとするサイレン時の小津作品に多数出演し、売れっ子の子役となった。なんと、昭和5年の出演作品は残っているものだけでも15本。
 やはり、映画が唯一の大衆の娯楽だった時代、こんな映画がたくさんあったんだろうなと思わせる。軽快さが非常にいい。こんな短編を何本見て、いっぱい引っ掛けて、家に帰る。なんとも優雅な生活ではないですか。

出来ごころ

1933年,日本,100分
監督:小津安二郎
原案:ジェームス槇
脚本:池田忠雄
撮影:杉本正二郎
出演:坂本武、伏見信子、大日方傳、飯田蝶子、突貫小僧(青木富夫)、谷麗光

 隣同士の喜八と次郎は同じ工場で働き、いっしょにおとめの店でめしを食う。喜八はやもめで息子の富夫と二人暮らし、次郎もひとり身だ。二人は富夫も連れて浪花節を身に行った帰り、分けありげな女に出会う。お調子ものの喜八は宿がないという女をおとめの店に連れていく。その女春江は結局おとめの店で働くことになった。
 少年もので人情ものでメロドラマ。サイレント期の娯楽映画の要素がぎっしり詰まった作品は、テンポよくほのぼのとしてなかなかいい。

 なんてことはない話、なんとなく面白い。サイレント映画なんてほとんど見たことはないし、見る作法もわからないし、飽きちまうんじゃないかと思うけれど、これが意外と見れてしまう。この映画はかなりセリフが出てくる(もちろん文字で)ので、なんかどこか漫画的な、でもしっかりと映画で、不思議な感覚。それもこれもやはりストーリテラーとしての小津の才覚、そして細かいところに気を配る小津の映画術のおかげなのか? といっても、どこがどうすごいといえるほど細部に目がいったわけではなく、ただ人の身振りってのはセリフがないほうがよく見えるとか、そんなことにしか気づきはしなかった。
 でも、他のも見てみたいと思わせるくらいには面白く、富江を演じる伏見信子も色っぽく、突貫小僧も面白い。日本人にとっての原風景といってしまうと陳腐になってしまうけれど、映画に限っていえば「これが原点だ」といってしまえるようなそんな雰囲気のある映画。確かに成瀬やマキノもいるけれど、やっぱり小津かな、そんな気にさせる不思議な魅力でした。

生まれてはみたけれど

1932年,日本,91分
監督:小津安二郎
脚本:伏見晃
撮影:茂原英雄
出演:斎藤達雄、菅原秀雄、突貫小僧(青木富夫)、吉川満子

 郊外に越してきたサラリーマン一家。2人の腕白兄弟は早速近所の悪ガキと喧嘩、引越し前の麻布ではいちばんつよかった兄ちゃんはここでもガキ大将になれるのか?  そんな二人も頭の上がらない父さんを二人は世界で一番えらいと信じていた。しかし、引っ越してきた近所には父さんの会社の重役が、果たして父さんは威厳を保ちつづけられるのか?
 非常に軽妙なタッチですごく躍動感のあるフィルム。登場する子供ひとりひとりのキャラクターが立っていて非常にいい。映像のリズムがよくて音を感じさせる演出なので、サイレントでもまったく苦にはならない。

いわゆる静謐な「小津」のイメージとは違うこのサイレント映画は画面のそこここに「音」が溢れている。そして非常に巧妙なストーリー展開。
 私はちゃんと細部まで観察しようという意気込みで劇場に座ったのだけれど、見ているうちにぐんぐんと物語に引き込まれ、気づいてみればもうラストという感じで見てしまった。90分という長さは当時の映画としては長尺だが、今見れば非常に心地よい長さ。やはり映画の理想は90分という自説は正しかったのだと再確認してみたりもしました。
 「何がよかったのか」と効かれると非常に困る。ストーリーはもちろんよかった。子供たちのキャラクターがよかった。出てくる子供たち(8人くらい?)のそれぞれが非常に個性があり、映画が始まって20分もすれば見分けがついてしまう。これは非常に重要なことだと思う。といっても、それが面白かったというわけではない。具体的にいえば、2人が学校から逃げ出す間合いとか、犬がお座りして2人見送るその画だとか、通って欲しいところで必ず電車が通過するその演出だとか(何と目蒲線!)、いろいろです。
 やっぱり小津ってすごい。