菊次郎の夏

1999年,日本,121分
監督:北野武
脚本:北野武
撮影:柳島克己
音楽:久石譲
出演:ビートたけし、関口雄介、岸本加世子、吉行和子、細川ふみえ

 父親が交通事故で亡くなり、おばあちゃんと一緒に暮らす少年正男。彼にとって夏休みはひどくつまらない時期だった。友達は旅行に行ってしまい、サッカー教室も休み。そんな夏休み、正男は顔すらも覚えていない母親を探しに豊橋へと行くことを決意した。そんな正男を心配する近所のおばちゃん(岸本加世子)は仕事もなくふらふらしている自分の夫に正男を連れていってくれるよう頼む。
 大人になりきれない男と、少年のロードムービー。北野監督はこれまでの暴力的な作品から一転して、笑いに溢れた暖かい作品を撮り上げた。
 久石譲作曲のテーマ曲が頭に残る。

 全体的な北野的「間」はこれまでの作品とかわらないが、全体の雰囲気や色調はがらりと変わっている。かなり「笑い」の要素を重視した作品。それでも、ビートたけし名義で撮った「みんな~やってるか!」とは明らかに違う北野的世界。しかしセリフをそぎとった「間」は健在。果てしなく晴れた空も「キタノ」の色だ。
 個人的に好きなのは、井出らっきょとグレート義太夫のハゲのおっちゃんとデブのおっちゃん。この二人が絡む一連のシーンの間と笑いがとてもいい。

HANA-BI

1997年,日本,103分
監督:北野武
脚本:北野武
撮影:山本英夫
音楽:久石譲
出演:ビートたけし、岸本加世子、大杉漣、寺島進、薬師寺保栄、松田井子

 ビートたけし演じる西刑事と、病気の妻(岸本加世子)、怪我をしてしまった同僚の堀部刑事(大杉漣)の間に繰り広げられる人間ドラマ。映画に繰り返し挿入される様々な絵も、たけしの作品らしい。
 北野作品の魅力は「色」と「間」だと思う。海の「色」、空の「色」、セリフのない「間」、セリフなしで演技をする役者たちはすばらしい。この映画は「あの夏、いちばん静かな海」のやさしさと、「その男、凶暴につき」の激しさが同居するような作品。それだけに映画としてのまとまりを持つことは難しかったのかもしれない。しかし、北野ワールドが人をひきつけてしまうことは疑いようがない。

 相変わらず、北野たけしの「色」と「間」の扱い方は素晴らしい。しかし、映画のなかでくり返しくり返し挿入される絵には少し食傷してしまった。絵が重要なことはわかるし、その正しい意図を反映させるために自分で描いた絵を入れるということも理解できるが、その絵は十分に物語を語りきれていないと思う。 それ以外の要素ではやはり北野ワールドといえる安心感があった。寺島進の演技もすばらしいし、岸本加世子も素晴らしい。無言で演技ができる役者は素晴らしい。 個人的には、車をパトカーに偽装する場面が気に入った。緻密な計算から生まれるあいまいな笑いと、驚き。満足げにはにかみ笑いを浮かべる西刑事を見ながら、「この場面だけでこの映画は価値がある」と思った。