The Straigt Story 
1999年,アメリカ,111分
監督:デイヴィッド・リンチ
脚本:メアリー・スウィーニー
撮影:フレディ・フランシス
音楽:アンジェロ・バダラメンティ
出演:リチャード・ファーンズワース、シシー・スペイセク、ハリー・ディーン・スタントン

 74歳の老人アルヴィン・ストレートがトラクターに乗って400キロ離れた兄ライルの家へと旅するロードムーヴィー。1994年NYタイムズに載った実際にあった話をデビット・リンチの公私にわたるパートナーであるメアリー・スィーニーが脚本にし、デビット・リンチがそれに乗る形で映画化が実現した。
 デビット・リンチらしからぬストレートな映画だが、その映像や台詞には相変わらずリンチらしさが垣間見える。映像がとても美しく、散りばめられたエピソードも、どれをとっても素晴らしい。

 この作品はこれまでのリンチ作品とは異なるといわれる。しかしそうだろうか?確かに、実際にあった話を脚色するという手法はこれまでとられたことがなかったし、純粋な人間ドラマというものも描いたことはなかった。しかし、リンチが最もリンチらしいところの映像やせりふといったものにはリンチらしさがにじみ出ている。急坂でファンベルトが切れてあせるアルヴィンのアップへと移るカメラの寄せ方、妊娠した家出少女とアルヴィンとの会話、ロングショットになると声もまた遠くなるとり方、その一つ一つを見てみれば、これは紛れもなくデビット・リンチ。
 ただひとついえるのは、それまでのリンチ作品のような緻密で複雑に絡み合った平行する物語がより単純化されたということ。それでも、単純にひとつの物語というのではなく、家出少女の物語や娘ローズの物語が、アルヴィンの一人称の物語という縦糸を斜めに横切っていく。
 この作品を撮るに際してデビット・リンチはアルヴィンと同じ道のりを(トラクターでではないけれど)たどってみたらしい。その辺りもデビット・リンチらしい緻密さである。リンチ作品を見ていつも思うことだけれど、「これは本当はもっともっと長い物語で、本当は4時間くらいで撮りたかったんじゃないかな」と思わずにいられなかった。やはり、デビット・リンチはデビット・リンチだったということか。 

2001年9月7日

 今回見て印象に残ったのは鹿。この鹿のシーンもまたリンチらしいシュールなユーモアを感じさせる部分。しかも、全く何も解決しないまま進んでしまうのがらしいところ。この映画に出てくるエピソードのほとんどはその後が語られない。そこに味があるのだと思いました。

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