1997年,日本,55分
監督:井口昇
脚本:井口昇
撮影:井口昇
音楽:YUJI&BERA
出演:新井亜樹、唯野美歩子、松梨智子、田中由香、田中芳幸、井口昇、鈴木卓爾
人に言えないコンプレックスを持った二人の女性が、公園の清掃の仕事場で出会う。果たして二人の関係は…
井口昇が監督・脚本・撮影・編集とほとんどすべてをこなした、自主制作のような中篇映画。アップリンクファクトリーで公開された。フィルムではなく、ビデオカメラ(Hi8)で撮られた映像はまさに自主制作映画。しかし、井口昇は素人ではなく、「裸足のピクニック」や「119」に出演した役者でもある。
この映画はとりあえず、おかしな映画。役者が妙にに無表情での演技も不自然に下手。しかし、矢口史靖監督の「裸足のピクニック」を髣髴とさせるような不思議な魅力にあふれている。
あたりまえに笑ったり、感動したりする映画とは違う何かを求めている人にはぴたりとくる映画かもしれない。
井口昇はアダルトビデオ(レズもの、スカトロものが中心)を何本か監督し、「毒婦」というオリジナルビデオ(レズもの)の監督もしているが、一般映画といえる作品はこの「クルシメさん」しかない。しかし、よくある一般映画を撮る資金集めにアダルトビデオの監督をしているわけではなく、純粋に好きでやっているようだ。しかし、一般映画も撮りたいと。
この作品を批評するのは難しい。映画の展開は完全に時系列にそって、しかも、主人公の藤井さんの視点から動かない。映像に工夫があるわけでもない。役者もぼう読みだし、「まるっきり素人じゃねえか!」と叫びたくなる映画だが、いったい何が面白いのか……
しかし、決して面白くないわけではない。とにかく徹底的にバカバカしいところがいいのかもしれない。なんとなく引きずり込まれて観ているんだけれど、終わってみても何も残らない。振り返って考えてみればみるほどバカらしい。そんな映画が作れるというのもひとつの才能なのかもしれない。世の中のひとつの切り取り方、監督・脚本・撮影・編集とすべてをひとりでやった作品なのだから、これがまさしく井口昇の世の中の切り取り方なのだろうと思ってみるしかない。
最初見たときは、「あんまり面白くないな」と思った。しかし二度目に見て、いくつかのことに気づいた。ひとつはこれがレズビアン映画であるということ。いわゆるレズビアンものではないが、二人の女性の関係性というものはまさにレズビアン的で、口の中を見せ合うシーンにはかなりのエロッティクさが感じられる。そして、互いに惹かれていながら様々な理由(というかそれぞれにただひとつの理由)から一歩を踏み出せない二人が思いもかけない形でキス(と言えるかどうかはわからないが)をしてしまう。それが物語りのクライマックスであり、その後の二人は何かある種の運命共同体のような形に描かれる。そんなラブ・ストーリーとしてみることが出来た。
もうひとつは、カメラの異常なまでの近接感。まさに顔をなめるように取るカメラが妙に生々しい。やはりこれはAV監督である井口昇だからこそ出来る技なのか、とにかく接写接写と責めまくる。しかし、大事なところは引き絵で見せる周到さも忘れない。
この映画はぱっと見の異様な感じとは裏腹に意外と普通の映画なのかもしれません。異常さの皮をかぶった普通な映画。しかし、異様であることには変わりない。
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