Rue Casses Necres
1983年,フランス,106分
監督:ユーザン・パルシー
原作:ジョゼフ・ゾベル
脚本:ユーザン・パルシー
撮影:ドミニク・シュピュイ
音楽:マラボア
出演:ギャリー・カドナ、ダーリン・レジティム、ドゥタ・セック、ヘルベルト・ナップ
カリブ海に浮かぶフランス領の島マルティニック、時は1930年、貧しい村に住む少年ジョゼの生活を描いた佳作。原作者ジョゼフ・ゾベルの自伝的作品をマルティニック出身の女流監督ユージン・パルシーが映画化。
純粋に映画としても楽しめるが、マルティニックという土地の風土やカリブの黒人が抱えるネグリチュード(黒人性)の問題を考える際のわかりやすい教材にもなりうる作品。
この映画のポイントは、マルティニックという島の黒人の抱える問題である。フランスの植民地の島にアフリカから連れてこられた黒人たちがどのようなアイデンティティを持ちうるのかという問題。
ひとつのありうる形はフォール市の劇場の切符売りの女性のように、黒人性を否定するもの。そのためには白人と結婚し、フランス語をしゃべり、フランス人になることが必要である。
もうひとつはアフリカへと行く道。フランツ・ファノンのようなネグリチュードの思想家が盛んに唱えたアフリカへの回帰の道をたどるものである。これはメドゥーズによって暗示される道である。
しかしこれらふたつがともに平坦な道ではないこともこの映画は語っている。第一の道は混血児であるレオポルドの挫折によって、第二の道はメドゥーズが決してアフリカへは帰れないことによって(彼はジョゼに「あっちには知り合いもいないし」と語る。これは彼らにとっての故郷アフリカはあくまでも観念的なものでしかないことを象徴している)、否定される。
したがって、ジョゼは第三の道を歩み始める。それは白人になろうとするのでもなく、アフリカに帰ろうとするのでもなく、フランス語圏(フランコフォン)の黒人としての立場を確立すること。そのためにフランス語を習得し、フランス文化を学んで、本国に認められること。ジョゼはそのためにフォール・ド・フランスへと戻ってゆく。
ルーツを失い、言葉を奪われた民族がたどるべき道は何のか?そんな深い問いかけを内包した作品である。
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