1961年,日本,91分
監督:増村保造
原作:円山雅也
脚本:井出雅人
撮影:小林節雄
音楽:真鍋理一郎
出演:若尾文子、川口浩、馬淵晴子、根上敦、高松英郎
裁判所でマスコミに囲まれる女。彼女は夫殺しの容疑をかけられた妻。山登り中、事故で宙吊りになり、下になった夫のザイルを切ったという。そしてその山登りには愛人と目される男も同行していた。果たして事故か殺人か?
増村的な「女」を演じることで、若尾文子にとって、転機となった作品。この前までは比較的爽やかなアイドル的な役が多かったが、この作品以後男を迷わす妖艶な「女」を演じるようになる。
現在から振り返ってみると、いかにも増村保造×若尾文子のコンビらしい作品だが、それまでの若尾文子の主演作(「最高殊勲夫人」など)とは大きく違う役回りを演じ、この作品以降はそれが定着したという感じである。
映画全体としてもいわゆる「増村的」といわれるものである。人物の撮り方、カメラの動かし方、小道具の使い方などなど… 例えば、会話している人物を正面から撮るときに、その相手の後姿(多くは後頭部のアップ)を手前に、しかも画面の真中に持ってきて、その奥に話し手を配置するやり方(ピントは話しているほうにあっている)。このとり方はいかにも増村的で、この画を見ると「ああ、増村」と思うような画なのだけれど、そんなシーンもちりばめられていた。しかも、このとり方は後期の増村がより多用する撮り方なので、やはり、このあたりから増村の作品は前期と後期に分けられるのかな、と無意味な分析をしてみたくなってしまうわけです。
一人の監督の映画史を時期に分けて論ずることにどれくらいの意味があるのかはわからないけれど、映画を見る側としては、このころの増村はこうでこのころの増村こうという情報があれば、映画を選ぶときの参考にはなるという感じなので、そんな区分けをしてみたかったのです。個人的には前期の「早すぎた天才」という感のあるすさまじい作品のほうが好きですが、後期の作品のほうが、同時代的には評価されただろうし、今見ても見ごたえのある作品という感じでよい。さらに時代を下ると、増村は勝新の主演作品を多く撮るようになり、同時に若い女優を使った作品を撮る。という感じなのです。
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