Maelstrom
2000年,カナダ,86分
監督:デニ・ヴィルヌーヴ
脚本:デニ・ヴィルヌーヴ
撮影:アンドレ・ターピン
音楽:ピエール・デロシュール
出演:マリ=ジョゼ・クローズ、ジャン=ニコラス・ヴェロー、ステファニー・モーゲン・スターン

 カナダでブティックを経営するビビアンは大女優を母に持ち、マスコミにも注目されていた。しかしブティックの経営状態はよくなく、オーナーである兄に店を閉めるように勧告されていた。そんな状態の中で彼女は中絶手術を受ける。自暴自棄になって酒を飲んでかえる途中、男性をはねてしまう…
 カナダの新鋭デニ・ヴィルヌーヴ監督のデビュー作。いわゆるアート系の雰囲気だがシュールな雰囲気と異様な映像美が才能を感じさせる作品。

 毒々しい魚が出てきて語りをはじめる辺り、同じカナダだからと言うわけではないけれど、どことなくクローネンバーグを思い起こさせる。物語の展開も一筋縄では行かない不思議な展開。
 この不思議さは物語のみならず映像・音楽すべてに通じているもので、なかなか分析することは難しい。途中で挿入される字幕もまた一般的な映画の文法を破るという意味では不思議な点かもしれない。
 なんといっても一番異様なのは徹底的なクロースアップ。印象では映画の半分以上がクロースアップでできてたんじゃないかってくらい徹底したクロースアップの連続。これは技術的にもすごいけれど、やってしまう度胸はもっとすごい。何なんでしょう。おそらくここまでアップを続けてしつこくならないのはブルーに統一された色調のせいでしょう。とことんまでに白い肌とブルーの背景という効果が可能にしたクロースアップ。
 果たして問題はそんなすごい映像を作り上げてなにが生まれたのかと言うこと。すごいなーと思いながら見れはするけれど、実際何かが伝わってくるのかというとなかなか難しいところ。解釈の余地はあるけれど、ぐんぐん迫ってくる何かがあると言うわけではない。単なるアート系の映像芸術は越えていると思うけれど、物語である映画としてはどうなのか。映像と物語とは互いが支えあってこそ意味があるのであって、映像だけが遊離してしまったり物語を伝えるだけになってしまってはそれは映画ではない。この映画は映画にはなっているけれど、物語の部分がどうしても弱い。それはいわゆる「アート系」の映画一般にいえることだけれど、この監督はおそらくそんな括弧つきのアート系を乗り越えられるだけの力があると思うので、そんな不満も口をつく。
 でも、楽しみな監督が出てきましたね。と思う。

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