1962年,日本,95分
監督:増村保造
原作:梶山季之
脚本:舟橋和郎、石松愛弘
撮影:中川芳久
音楽:池野成
出演:田宮二郎、高松英郎、叶順子、船越英二、菅井一郎
タイガー自動車は開発中の新車のテストを行っていたが、そのテストカーが事故を起こし、その事故の事実が産業スパイによって新聞社に売られてしまった。それをライバルヤマト自動車の馬渡の仕業だと考えたタイガー自動車の小野田は部下の朝比奈を片腕として激しいスパイ合戦をはじめる決意をする。
ビジネスの世界を舞台としたハードボイルドな物語。田宮二郎を主役として3年間で11作が作られたサスペンス「黒」シリーズの第1作。
増村のサスペンス物は面白い。やはり若尾文子とものとか渥美マリの「軟体動物シリーズ」などに注目が集まりがちだが、このサスペンスというジャンルは増村は得意らしい。特にスパイものは。「陸軍中野学校」は何といってもヒットシリーズだし、この「黒」シリーズもそう。ほかには川口浩主演の「闇を横切れ」もかなり面白かった。サスペンスというと謎解きの面白さでプロットが面白さの大部分を占めると考えられがちだけれど、私は必ずしもそうではないと思う。文字で読むのとは違う映像ならではの謎解きというものが存在し、犯人を明かすも殺すも監督の演出力次第という感じがする。この作品はちょっと犯人がわかりやすかったけれど、それでも確信をもてるまではいかない隠しかたはされていた。
増村のサスペンスが面白いのはそれだけではなく、結局サスペンスに終始しないというところ。「恋にいのちを」も一種のサスペンスだったけれど、人情とか恋愛とかそういう人間的な要素が大きな部分を占める。この作品でも結局のところスパイ合戦よりも主人公の田宮二郎のこころの動きというものが本当の物語の核であるような気がする。時代性を考えれば高度成長期を突き進む日本の企業戦士への警鐘なのかも知れない。
またサスペンスでは増村のマッチョさが浮き立たされてそれが面白いというのもある。基本的に男の正解を描く増村のサスペンスでは登場する男達がみんな(精神的に)マッチョでそれは増村自身のキャラクターを反映しているような気がする。そのマッチョさを現代にも通じるものとして肯定することは到底できないけれど、一つのパターンとして考えるのはとても楽しい。女性をあんなに魅力的に描ける監督がどうしてこんなマッチョな面を合わせ持つことができるのか?ヨーロッパ的な騎士道精神かな? イタリア留学してたくらいだから、イタリア的なのかもしれません。
今日のテーマは増村とサスペンスとマチスモとイタリアということでした(後付け)。
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