幼い時に両親が失踪し、伯父夫婦に育てられた高校生のピーター・パーカー。ある日、父のカバンを見つけたパーカーは失踪前に父と研究をしていたコナーズ博士のインターン研修に潜り込むが、そこで研究用の蜘蛛に噛まれてしまう。蜘蛛に噛まれたピーターは超人的な能力を身につける…
マーベルの人気コミックを3D映像で再映画化。主演は「ソーシャル・ネットワーク」のアンドリュー・ガーフィールド、監督は「(500)日のサマー」のマーク・ウェブ。

 この映画を2Dで観て、3D映画について考えた。この映画は新たなスパイダーマンシリーズの1作目、つまり、コミックやアニメや他の映画で誰もが一度は見たことがあるであろうスパイダーマンの最初のエピソードだ。つまり、そこにストーリーの目新しさはない。キャストが変わり、演出が変わったけれども、基本的なプロットは同じだ。親がいない高校生が蜘蛛に噛まれて超人的な能力を身につけ、世の中のために働き始めるが、そこに「宿敵」が現れると言うものだ。もちろん物語の細部は違う。しかしそれはあくまで細部であり、映画に没頭するほどの目新しさがあるわけではない。

つまり、退屈なのだ。だから見ながら、なぜこんな大作が退屈なのかということを考えると、それはこの映画が完全に3Dありきで作られた映画だからだということがわかった。それが最もよくわかるのは、スパイダーマンが糸を使って空中を滑空するシーンだ。ビルやクレーンに蜘蛛の糸をひっかけ、ブランコのように猛スピードで人々の頭上を飛んでいくあのシーンだ。これを観て、このシーンの迫力は3Dではないと味わえないと思った。だからこの映画は2Dで見てはダメなんだと。

だから、この映画の評価をちゃんとすることはできないのかもしれない。しかし、そもそもこのような3Dで見ないと成り立たない映画というのはどうなんだろうと考えた。近年の3D映画は目覚ましい発展を遂げている。以前から3Dの試みはあったが、近年のブームの火付け役となったのはご存じの方も多いだろうが2009年の「アバター」だ。その特徴はCGをうまく使って、単に2つの映像を重ねるのではなく、それ以上の迫力、現実に目にしているもの以上の迫力を演出したところにある。そのブームが始まってから3年の間にさまざまな3D映画が作られた。

しかしなぜ3D映画が作られたのか、その根本から考えると、映画が長年追求してきた「リアリティ」の歴史にたどり着く。最初は白黒で無音の映像、しかも非常に強い光を必要としたために特定の場所で固定されたカメラでしか撮れなかった映画が、サウンドトラックを得、色を得、フィルムの感度も上がり、撮影手段もポータブルなものになり、今や誰もが撮れるようになった。その時に、さらなるリアリティを実現するものを考えると誰もが辿り着く結論が「奥行き」である。3D映像は素人には撮れない(今は撮れるカメラもあるが)、だからハリウッドが差別化できるリアリティとは3Dなのだと考えたのだろう。

トーキーが出現した時も、カラーフィルムが出現した時も、人々は「あんなものは映画ではない」といった。以前の表現方法のほうが優れていると。それはそうだ。以前の表現方法には歴史があり、その歴史の中で沢山の人々がその表現を磨いてきたからだ。技術的には劣っていても完成度が高ければそのほうが表現としては優れたものになることは十分ありえる。そこで考えるのは、今の3Dというのは同じような現象なのだろうかということだ。一部では以前と同じような一過性のブームにすぎないと見る向きもあるが、私はそうではないかもしれないとも思う。トーキーもカラーもその普及にはハードの更新と内容の充実が必要だった。

今は家庭などさまざまなスタイルで映画を見ることが当たり前になっている。そのさまざまなシチュエーションに3D映画が対応することができ、内容も面白いものであれば、3D映画が当然になってくるのではないか。とDVDで2Dを見ながら思ったわけだ。

つまり何が言いたかったかというと、このスパイダーマンの新シリーズは早すぎたのではないかということだ。1つ前のシリーズも記憶に新しく、3Dを見られる環境がほぼシネコンに限られている今、新シリーズだからとスパイダーマンを改めてみようという人はあまりいないのではないか。表現方法が変われば印象も変わるだろうが、今の3D映画はそこまで行っていない。5年後か10年後ならもしかしたら新たなシリーズがヒットするかもしれない。

DATA
2012年,アメリカ,136分
監督: マーク・ウェブ
原作: ジェームズ・ヴァンダービルト、スタン・リー、スティーヴ・ディッコ
脚本: アルヴィン・サージェント、ジェームズ・ヴァンダービルト、スティーヴ・クローヴス
撮影: ジョン・シュワルツマン
音楽: ジェームズ・ホーナー
出演: アンドリュー・ガーフィールド、エマ・ストーン、サリー・フィールド、デニス・リアリー、マーティン・シーン、リス・エヴァンス

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