東京の坂西家には、母のあき、雄一郎と和子の長男夫婦にその息子、さらにぶどう酒会社に勤める末娘の春子が住んでいる。今はそこに日本橋の旧家に嫁に行った長女の早苗がやってきていた。坂西家にはさらにカメラマンの次男・礼二、お嫁に行った保母の薫と5人の子供たちがいた。そんな坂西家に連絡が入り、早苗の夫が旅行中のバス事故で亡くなったという…

原節子をはじめとした豪華な女優陣で、女と家族の関係を描いた力作。それぞれの女性がそれぞれの生き方を見事に演じ見ごたえのある作品になっている。

『娘・妻・母』というタイトルからもわかるように、成瀬得意の女性を主人公にした物語であり、女性が娘から妻、母へと立場を変えることで、どのように変わっていくのか、そしてその立場というものが時代の変化に伴って、どう変化していくのかということを描いた物語である。が、そんな「女」の物語である以前にこの映画は「お金」の物語である。

この映画は、投資信託というお金の話から始まる。そして、早苗の夫が亡くなったところでも、香典の金額の話が話題に上る。そして映画が進むにつれて、遺産分配の話、借金の話などとにかくお金の話が中心になるのだ。これはすごく珍しいのではないかと思う。とくに成瀬は他の作品で「お金」に焦点を当てるということはあまりなかったように思うからだ。

しかし、この映画が描こうとしていることの一つは時代の変化であり、お金はこの時代の変化というものに大きくかかわってくる。この映画が作られたのは1960年、高度経済成長が本番になるのはまだだが、とりあえずお金がものをいう時代になって言ったことは確かだろう。この映画の底流に流れるのは、お金さえあれば女性も男性とある程度は対等に渡り合っていけるという思想ではないかと思う。

だから、女性に焦点を当て続けてきた成瀬がお金に焦点を当てたのではないか。お金がそれぞれの女性にどのように作用するかを描くことで、この時代の女性像を浮き彫りにしようとしたのではないかと思う。

原節子演じる長女・早苗は基本的にお金に無頓着である。末娘の団玲子演じる春子に対して時代の違いをとつとつと語るところからも感じられるように、自分は旧時代の女であると考えていて、家族のために自己を犠牲にすることもいとわないし、お金を手にして男性と渡り合おうなどとも考えていない。

草笛光子演じる次女・薫は現代的である。姑に文句を言われながらも仕事を続け、すべてをすっきりと割り切っているような気がする。お金に関しても自分のお金は自分のお金、がめついわけではないのだが、自分の権利をしっかりと主張するという感じである。おそらくこの薫が時代を象徴する新しい女性として描かれているのではないだろうか。末娘の春子こそがそうなのかとも思うが、春子は遊撃手としてそれぞれのキャラクターを浮き立たせる存在であるように思える。

この作品が面白いのは、時代を映す鏡がそんな三姉妹だけでとどまらないことである。2人の嫁、そして老齢に差し掛かる母、薫の姑とさらに4人の女性にそれぞれ異なるキャラクターを当てている。高峰秀子演じる長女の嫁・和子は早苗と同様に旧時代の女性として登場するが、特徴的なのは夫と子供の三人でひとつの完全に閉じた関係を作り上げているということだ。この映画は坂西家という1つの小宇宙を描いた映画だということができるのだが、その中でこの3人だけは別の小宇宙を作っている。和子は嫁として坂西家に入ってきたわけだが、その家族関係を切り崩し、別の形に変えた。和子は行動によってその家の中での自分の重要性を築き上げ、しかし表面上は控えめに振舞う。お金の面でも夫と協調し、夫を動かしながら、実は財布の紐を握っているのかもしれない。問題はそう単純なものではないのだが、とにかく、この和子のありようは作品において非常に重要なものだ。なかなかわかりにくい存在なのだが、それによって映画に深みが生まれるというか、いろいろと捉えようが出てきて面白い。

さらに淡路恵子演じる次男の嫁・美枝は薫とは別の形で新しい時代を象徴しているようにも思える。坂西家の母・あきと、薫の姑・加代は親子関係の変化を示唆する。核家族化の中での嫁・姑の問題もそうだし、老人ホームも出てくる。

『娘・妻・母』というタイトルがピタリと来るさまざまな女性の生き方に、さらにお金の問題を絡め、さらにここには書ききれなかったさまざまのエピソードをからめて、重層的に日常を描いた味わい深い作品である。何度も繰り返し観たい作品だと思う。

DATA
1960年,日本,123分
監督: 成瀬巳喜男
脚本: 井出俊郎、松山善三
撮影: 安本淳
音楽: 斎藤一郎
出演: 三益愛子、中北千枝子、仲代達矢、加東大介、原節子、団令子、宝田明、杉村春子、森雅之、淡路恵子、笠智衆、草笛光子、高峰秀子

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