ドキュメンタリー映画の中には、いわゆるマスメディアではこれまで注目されていなかったような人にスポットを当て、その結果、その人達が有名になるというような話が結構ある。特に海外の作品では、日本では全く知られていないような人が、日本で有名人になったりすることがある。

例えば、『ハーブ&ドロシー』なんかはその好例で、アメリカの美術界では知る人ぞ知る存在だった普通の人達が一躍有名人になった。

この『アドバンス・スタイル』も、ただのファッション好きでしかなかった高齢の女性たちが、ブログや映画を通して有名になり、有名ブランドのモデルに成ったり、全国ネットのバラエティーショーに出るようになったりするという映画だ。

そのきっかけを作ったのは、写真家のアリ・セス・コーエン。街で見かけたハイセンスな高齢の女性の写真を撮ってそれをブログや写真集で発表する写真家だ。彼はさまざまな女性の写真を撮り、ブログで発表したり写真集にしたりする。映画では、その中の7人にスポットを当て、彼女たちに人生観を語らせ、その生き方にスポットを当てる。

印象に残るのは、やはりとにかく派手だったり、個性的な服装の人だ。彼女たちの言葉を聞くと、達観というか、もう残りの人生も少ないんだから自分が生きたいように生きようというある種の開き直りを感じ取れる。

それは、その年齢になったからこそとも言えるが、よく考えたら別に歳を取ってなくても生きたいように生きればいい。サラリーマンはだと毎日スーツを着て、その色なんかもほぼ決まっていたりするわけで、そこから逸脱するのは難しいわけだけれど、それは一つの生き方であり、そのような人たちからは眉をひそめられるような格好をしながら生きている人ももちろんいる。

それが受けいられるかどうかは、受け入れる側の「社会」の価値観の問題で、今の日本で考えてみると、いわゆるビジネススタイルから逸脱した格好をしても受け入れられる「社会」というのはかなり少ないように思えるし、その多くはいわゆるドロップアウトした人たちの社会なのだろう。

しかし、逆にアーティストのような逆方向に突き抜けた人たちならば、そのような逸脱をしても受け入れられるというのもある。これはひとつ、歳を取っていなくても生きたいように生きるのが許されている例だといえるだろう。

長々とこんなことを書いたのは、ここに登場する女性たちがそのような社会の規制というか圧力を突き破る存在たり得るからだ。年寄りが好きな格好をしても許されるのは、彼女たちがある意味で「見えない」存在であるからだ。自分たちには関係ない人たちだから好きに生きてもらって構わないと考えることができる。

しかし、ここに登場する女性たちは、ブログやこの映画によって社会から注目されるようになっても、その生き方が受けいれられた。それは彼女たちが、自分たちの社会からの「見え方」を変えたということだ。それができたことで、彼女たちは「生きたいように生きる」ことも受けいられた。

彼女たち一人一人の生き方の中には、なかなか共感しづらいものもある。しかし、その自分が本当に求めるものを求め続けるというスタンスには学ぶものがあるように思う。別に周囲に変だと言われようと好きな格好をすればいいし、好きな生き方をすればいい。それで生きにくくなることもあるかもしれないけれど、「自分らしく」生きることを優先するならそのほうがいいと考えることもできる。

この映画がやろうとしたのは、そのような自分らしい生き方をしている人たちが、アーティストのような有名人でなくてもいるし、誰でもそのような生き方を選ぶことができるということを示すことなのかもしれない。

DATA
2014年,アメリカ,72分
監督: リナ・プリオプリテ
脚本: アリ・セス・コーエン、リナ・プリオプリテ
撮影: リナ・プリオプリテ
音楽: ケリ・スカー
出演: アリ・セス・コーエン

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