Hecate 
1982年,スイス=フランス,108分
監督:ダニエル・シュミット
原作:ポール・モーラン
脚本:パスカル・ジャルダン、ダニエル・シュミット
撮影:レナード・ベルタ
音楽:カルロス・ダレッシオ
出演:ベルナール・ジロドー、ローレン・ハットン、ジャン・ブイーズ、ジャン=ピエール・カルフォン

 北アフリカに赴任したフランスの外交官ロシュールはパーティーでであったアメリカ女性クロチルダと恋に落ちる。純粋な恋愛映画として始まるこの映画、しかしクロチルダの謎めいた行動がロシュールを混乱させ、徐々にサスペンスの要素が強まって行く。
 徐々に緊迫感を増す展開もおもしろいが、この作品で最も素晴らしいのはその構図。フレームによって切り取られた一瞬一瞬が一葉の絵画のように美しい構図を構成する。微妙な色合い、光の加減、フォーカスを長くして作り出す不思議な構図などなど。その美しいという言葉では言い表せない映像を見ているだけでも飽きることはない。

 そう、構図が美しい。無理に一言で表現してしまえばそういうことなのだが、決してそれだけでこの映画の映像のすばらしさが表現できるわけではない。重要なのは、その一瞬の構図が美しいことではなく、その変化する構図が緊張感を保ちながら美しくありつづけることだ。
 たとえば、山の上から、ロシュールと上司の外交官が下を見下ろしている場面。カメラは彼等二人の背中を映しながら右から左へゆっくりとパンして行く。その時、正面にひとつの山並みが見えるのだが、その山が正面にやってきたときの構図にはっと心を打たれる。もちろんその時、遠くにあるはずの山と近くにいるはずの二人とに同時にピントがあっていることも大事な要素だ。そこでは映画における遠近法が無視され、山と人は同じ大きさのものに見える。
 あるいは、階段にロシュールとクロチルダがうずくまっているシーン。最初、赤と緑の微妙な色合いで、左上へと昇って行く階段と、右上に青い窓が映される。その構図だけでもちろん驚くほど美しいのだが、まず、右上の窓のところロシュールが動く。そこで観衆は(少なくとも私は)そこに人間がいることに気づく。そしてさらに、階段のところにはクロチルダがいることに気づく。二人はのそのそと動き、構図を変化させるのだけれど、果たして構図は美しいままだ。
 もうひとつ、面白いのは、30年代くらいのハリウッドの模倣。私が気づいたのは、ある場面で二人がキスする時、直接映すのではなく、影を映す。これはいわゆるクラッシックなハリウッド映画を見ているとたびたび用いられる手法だ。他にも、あっと思ったシーンが二つほどあったけれど、ちょっと思い出せません。おそらくシュミットは黄金期のハリウッド映画にかなりの愛着を持った監督なのだろう。
 非常に、玄人受けする映画だと思いました。

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